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モノカキさんへ20の台詞

2010年11月21日――17.燃え移ったらどーすんだテメェ!!・・・追加
2010年8月8日――10.天国で会えるといいね・・・追加
2010年8月2日――18.囚人と同じだよ・・・追加
2010年5月7日ーー12.頼むから水をくれ・・・追加
2010年2月8日ーー15.死ぬなんて言うな・・・追加



01 「世界が俺を呼んでいるのだ」

02 「人間なんてそんなものだよ」
03 「本当は優しいクセに」
04 「まだ起きてたの?」
05 「俗に言うお姫様抱っこってヤツだな」
06 「早く仕舞いなさいよこの変態ども!!」
07 「泣け」
08 「ここって立ち入り禁止なんじゃ……」
09 「あーもう、分かったから連呼すんな」
10 「天国で会えるといいね」
11 「それって何かの専門用語?」
12 「頼むから水をくれ」
13 「暗くて何も見えないよ」
14 「くそっ……あのオカマ野郎!!」
15 「死ぬなんて言うな」
16 「よくそんなクサい台詞言えるね」
17 「燃え移ったらどーすんだテメェ!!」
18 「囚人と同じだよ」
19 「どうして笑わないの?」
20 「お前なんかいなくたって生きていけるんだよ」



お題提供:


06/11/25―開始





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17「燃え移ったらどーすんだテメェ!!」

補足:草八(そうはち)、灯(あかし)、澄(ますみ)、と読みます。



――【横顔】――



日差しは暖かいが、空気が刺すように冷たい。季節はようやく長引いた残暑から秋を迎えたばかりであるのに、既に冬が近くで待ち構えているようだった。この日、大学の講義を終えた草八に、突然とある後輩から電話がかかってきた。
『草八さん、花火やりましょう』
この後輩が何かを始める時は必ず唐突だった。秋が終わり、冬の前に来る木枯らしのような前触れなどは存在しない。
『先日、花火を沢山貰ったんです。季節も変わりますし、折角なんで他にも知り合い呼んで全部やっちゃいましょう』
落ち葉が揺れ、セーターとマフラーが愛おしく感じるこの時期に相応しくない語の序列を聞いた草八は、思わず尋ねていた。
「なぁ灯。今、何月だっけ?」
草八の言葉に灯は、何ですか突然、と心底不思議そうな声を上げて、続けた。
『今は10月ですよ。じゃあ明日の8時にいつものグラウンドでやるんで来てくださいね。今の所、来る予定なのは』
相手に相槌すら打たせず一方的によく喋る奴だと感心しながら、彼の言葉が区切れるのを待った。
花火をすること自体は悪くない。しかし草八は大人数で騒ぐことが苦手である為、この誘いを断わるつもりでいたが、話が終わる最後の一言によって、了解の返事を出さざるをえなかった。
『あ、それと、澄さんも来ますから』

***

「だから、火をつける時は風向きを考えるんだよ」
「んー…こうか?」
「うわっ!灯、危ない!」
「燃え移ったらどーすんだテメェ!!」
少し離れた場所で灯達の騒ぐ声が聞こえた。辺りは暗く、ぼんやりとした形でしか彼らを見ることは出来なかったが、恐らく灯がまた何かやらかしたのだろうと草八は年下の友人達を微笑ましく眺めていた。
「あなたは行かなくても良いんですか?」
声をかけられてふと横を向くと、澄が隣に立ち、缶コーヒーに口をつけていた。
「俺はここで静かにしている方が楽なんだ」
初めは灯達にも近くに居るよう誘われたのだが、荷物を見ておくと理由をつけてグランドの端にあるベンチに座って居た。
「草八さんらしいですね」
そう言って澄は隣に腰を下ろし、ジャケットのポケットから何かを取り出した。
「寒くないですか?これ、暖かいですよ」
差し出された手には先ほど飲んでいたものと同じ銘柄の缶コーヒーがあった。礼を言って受け取ると、缶の熱が冷えた指先に触れてじんと鋭い熱さを感じた。
頬に当てるともっと暖かくなりますよ、と澄は自分の缶を頬に当てて言った。
それを真似して草八も同じ様にする。少し身体が強張っていた。
広いグラウンドの中、地面の近くに小さな明かりが灯る。先程から騒ぎの中心となっている場所だ。とたんにその明かりは2、3と数を増し強い光となり音を立てながら鮮やかな火を散らしていった。
「ついたー!」
灯たちはどうやら無事に火種を点けることが出来たらしい。鮮やかな色の火花が次々と増え、煙が風に流れていった。
「点いたみたいだな」
「そうですね、良かった」
「澄は…行かなくて良いのか?」
元々喋る事が得意でない性もあるが、舌がうまく動かないのは寒さのせいだけでは無かった。
「実は私もこうやって眺めている方が好きなんです。ご迷惑でなければこちらに居させて頂きたいのですが」
「…別に、構わない」
寧ろこのまま傍に居て欲しい。そう言いたかったが伝えることに躊躇し言葉にはならなかった。
パラパラと遠くで弾ける花火を見ながら澄の話を聞けば、今日は灯に無理やり連れてこられたのだと言う。
「実はあまり、花火が得意ではないんてす」
遠くから眺める事は構わない。しかし強すぎる光は眩しく、近くに居ることすらままならないという。一種の恐怖に近いかも知れないと、澄は言った。
「灯は相手を考えないからな」
「でも、理解はしてくれているんですよね」
その点においては草八も同感だった。

「マスミさーん!!」
噂をすれば、灯が大声を出してこちらに両手を大きく振っていた。花火が閃光を放ち、不思議な模様が目に焼き付く。
無邪気に騒ぐ共通の友人は、澄の性格を深く理解している。無理に自分の方へ誘うということはしなかった。
手旗信号を送るような灯の動きは、何かを伝えたがっているようにも見えた。くるくると回る光の線はいつしか形を作り楕円や三角を描き、そしてハート型になった。彼の様子に、澄は穏やかに微笑みながら手を振り返している。しかし直ぐにその顔から笑みは消えた。「どうして」
澄のか細い声は聞こえない程の囁きだった。
“どうしてこんなにも私なんかを慕ってくれるのでしょう”
それはいくら強い光でさえも照らす事の出来ない深く寂しい囁きだった。
いつの間にか花火の明かりが無くなり静寂と暗闇が訪れる。隣に座る澄がこの暗闇に溶けて消えてしまうような気がしてならなかった。
シュッと軽快な音を放ち、花火が打ち上がる。冷えて空気が澄んだ夜空に多くの星が煌めく中、花火はひときわ強い光を放つ星のように輝き、流れて、消えた。幾つかの花火が同じように打ち上げられては、消えていった。
火が消えた位置から光を無くした硝煙は風に吹かれ、月の光を遮り、その形を映し出していた。いつの間にか草八は、一瞬にして輝きを失う花火の光よりも暗い星空に溶けて行く儚い彩雲に目を奪われていた。
「草八さん?」
澄の声に、草八は意識を引き戻される。
「どうかしましたか」
草八は花火が打ち上げられている方向より少し外れて顔を向けていた為、澄が不思議に感じたのだろ。加えて、その方向には澄がいる。端から見れば澄を見ている様にも取れただろう。草八は慌てて弁解をした。
「月を、見ていたんだ」
何故咄嗟に煙を見ていたと言わずに嘘を吐いたのか自分でも分からなかった。
澄が横を向き、欠けた月を見た。
「少し欠けてますね」
「あぁ、でも」
言葉に詰まった。直感的に思い付いた言葉を口に出すことが気恥ずかしく感じられたのだ。
「綺麗だと、思って」
草八に視線を向けた澄の顔は少し驚いたような、照れているようにも見えた。はにかむような優しい顔だった。
「そうですね。とても綺麗です」
夜空は再び、星と月だけが存在する静寂を取り戻していた。


「草八さん見て見て!蛇花火が凄いことになった!」
「持たないでよ気持ち悪い!」
「おい澄!灯をなんとかしろ!」
友人達の声は地上の静寂を乱暴に壊し、草八にここがグランドである事を思い出させた。
一通り観賞用花火を終えた彼らは、残りのバラエティーに富んだ花火を持て余していた。
その様子に草八は呆れながらも思わず笑っていた。
「お前ら、中学生か」
「えっ何それ酷ぇ!」
横を振り返れば、澄も笑っていた。
「2人とも全然花火やらなかったじゃないですかー」
「せっかくなんだから線香花火くらいやろうよ」
一人が澄の手を引き、もう一人が糸状の花火を手渡しながら、小さな火の点いている所へ澄を連れて行った。
「草八さんも行きましょう」
草八もまた誘われ、光の下へ行く。歩きながら、灯は訊ねた。
「遠くで見てて面白かったですか?」
「…悪くはない」
それに、光は遠くから見ている方が良い。
そう答えて、草八は冷めた缶コーヒーを飲み干し、舌に残る苦味の余韻に浸った。








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10.天国で会えるといいね



――【イルビコグラの子共たち‐Ishanahon IRUBIKOGURA‐】 ――



私たちは陽の当たらない所にひっそりと住んでいました。
大家族と呼べる程、兄たちと姉たちと妹たちと弟たちがいました。私はその兄弟たちの6番目で、比較的、お姉さんの方でした。そして私には、ほぼ同時に産まれた双子の兄がいます。姿形はよく似ていると言われ、どこへ行くにも一緒でした。
しかし今となっては、唯一の家族です。
私の多くの兄たちと姉たちと妹たちと弟たちは、“奴ら”の虐殺によって、死にました。

“奴ら”とは、私が産まれるずっと前から、この世を支配している者たちです。とても巨大な組織をもち、残酷な兵器を使って私たちを殲滅させる事を望む者たち。
しかし私たちは“奴ら”が居ることで生きる事ができるので、ただ静かに共存すべきだとしていましたが、“奴ら”はそれを望みませんでした。私たちの姿を一目みただけで、恐ろしい巨大な武器を振りかざし私たちを殺していくのです。

そして、私は共に生き残った最後の兄と、部屋の角で息を潜めてそこに居ました。
兄と食料を探し終えて住処へ帰ろうとした時の事です。その帰り道で悲劇は起こりました。私が“奴ら”の目に止まったのです。先へ行く兄を追いかけ、走る間に、“奴ら”が来てしまったのです。暗かった景色が途端に眩しくなり、“奴ら”は私たちには解らない大声を放ちます。それは、叫び声にも怒鳴り声にも聞こえました。
そして一瞬“奴ら”が姿を消した隙を見て、私は急いで兄のもとへ駆けて行きました。もつれそうな足をなんとか動かして、住処へ隠れると、倒れ込むように兄へ抱き付きました。立ち止まっても私の体はがたがたと震えます。“奴ら”が姿を消すのは、あの恐ろしい兵器を用意しているからなのです。兄もすぐに気付いたのでしょう、顔を強ばらせ目を見開いて、じっと入り口を見ています。
暫く静寂が続きました。
私は兄弟たちの無惨な姿を、姉妹たちの悲痛な叫びを思い出していました。私はどのように殺されるのか。体中に痛みを受けて死ぬのか、もしくは毒を撒かれて苦しみ死ぬのか。
ふと気が付くと、兄は私の頭を優しく撫で「前に、兄さんたちが言ってたんだけど」と言いました。
兄も兄たちの居た頃を思い出していたのでしょう。
「僕たちは、死んだら天国に行けるらしい」
天国、という聞き慣れない言葉の響きに私は兄を見つめます。
「僕たちは何も悪い事はしていないじゃないか」
だから、死んでいったみんなも天国にいるし、僕たちが死んでも天国に行けるんだ。
兄の言葉に、私は不思議と震えが治まっていました。視界が、少しだけ明るくなったような心持ちがしました。私は兄に尋ねました。
「天国に、“奴ら”はいないの?」
「あぁ、もちろんさ。だけど天国はとても広いから、そこでもう一度会うのはちょっと大変らしいけど」
天国という場所へ行く途中ではぐれてしまうらしい。
そう言われ、私はがっかりしました。
例え“奴ら”の居ない世界へ行ったとしても、兄と離れ離れになるくらいなら、怯えながらでも、兄との傍に居たいと思いました。
兄と共に生きることが、私が持つたったひとつの願いでした。

突然、眩しい閃光が、外から照らされました。“奴ら”が外で騒ぐのが聞こえてきます。きっとあの細い光を放つ隙間の先で、“奴ら”は私たちを探しているのでしょう。
震える私の手に、兄の手が触れました。
「“奴ら”はお前の姿しか見ていない」兄が言いました。
「複数いるとは思ってないさ」
私は兄が何を考えているのかすぐにわかりました。しかし、それは余りにも恐ろしい事でした。
「僕が気を引くから、お前はここで動くんじゃないよ」
私は泣きそうになり必死に兄を引き止めました。もしかしたら泣いていたのかも知れません。そんな私を見て、兄はまるで幼い子供をあやす時のように、それは優しく微笑みました。
「天国で会えるといいね」
兄はそう言い残し、“奴ら”へ向かって行きました。
“奴ら”の叫び声と、何かが強く叩き付けられ、破裂したような激しい音が幾度も幾度も私の耳に撃ちつけます。嘗てあの音の後に、生きて帰った者は1人もいません。
音が止むと同時に訪れる静寂により、“奴ら”が彼の命を散らせた事を知らせました。
私はただ震えることしか出来ませんでした。“奴ら”の視界に入らなければ殺される事はない。そう考えて、自らの震えを抑えようとしました。
けれど、そうではなかった。
“奴ら”はその恐ろしい兵器を、私の住処へ放ったのです。白いガスでむせかえる住処の中、壁を伝いに逃げようとしましたが、出れば“奴ら”はそこに居ます。私はその時、兄の言葉を思い出しました。
「天国に行けば、みんなに会えるんだね」
兄のいないこの世界に私の望みはありません。
息苦しさに、その場で向けに倒れた私は、祈るように両手を組み合わせ、眠りにつきました。

“奴ら”は時に私たちを先祖と崇め、時に悪魔として恐れる。
私たちは“奴ら”を子孫と甘やかした結果、自らを滅ぼした。
ああ、愚か者はどちらでしょうか。
愚かな私にも救いがあるというならば、せめて先立った兄弟姉妹たちと、そして最期まで共に居た兄と、天国という場所で再び出会いたいと思うのです。






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18.囚人と同じだよ

これから語るお話は“クロ”という力が在る世界の話。

この世界で“クロ”は、とても強い力を持っている。

だから“クロ”は、呪いだとも言われていた。

これはその“クロ”を持つ者・ロナと、
共に旅をする男・シキユの、或る断片的な物語。


***


【温かい雨】


今日はここで休もうか、と言ったのはロナの方だった。
いつもならシキユから彼を気遣い、声をかけているのだが、この日は珍しく違っていた。
この町に着いた時、まだ日は暮れていなかった。しかし次に向かう町までまだ大分距離があり、今から出発しても途中で夜になってしまうだろうとロナが言うので、シキユはそれに素直に応じた。
宿を借りた後、旅の荷物を買い揃える為にシキユは単独で町を歩き、買い出しを済ませた。広く大きな町であったので、必要な分の食料は勿論、質の良い武器なども多く見られた。賑わう町を一通り見終え、宿に向かう頃には、空は夕暮れから夜に変わろうとしていた。
「只今戻りました」
シキユが宿の一室のドアを開けると、ロナは窓から離れたベッドの隅に座り地図を広げていた。
「あぁ、お帰り」
ドアを開けた者がシキユである事を確認すると、頭部まで覆っていたローブのフードを取った。細く長い黒髪がさらさらと流れ、褐色の肌を覗かせる。その左頬には、はっきりと蔓草のような模様が浮かび上がっていた。
それは、ロナが強い力“クロ”を持つ者――殊に、全身に“クロ”の模様を持つ“クロマトイ”であることを示す証だった。
「ありがとう。君にはいつも世話になっているな」
「ロナさんのお役に立てるのなら、喜んで」
決して大袈裟な言い方ではなかった。
過去、シキユはロナに命を救われた。瀕死状態の所を、ロナの強い“クロ”の力によって一命をとりとめたのだ。その恩を返す事が彼の旅に同行している大きな理由だった。
「明日はどのように?」
「そうだな…早めにここを出ようと思う。そうすれば次の夜には目的地へ着くだろうから」
君も早めに休んでおくと良い。そう言いながらロナは地図をたたんだ。
「俺は荷物を確認しておきます」
「ありがとう。じゃあ、私は先に休ませてもらうよ」
そう言って、ロナはそのままベッドの上で横になった。
クロマトイであるロナはその体質故に、より体力を消費する。この町の様に人が多く入り乱れる所では尚更のことだ。安全に休める宿をとれただけでも幸いだった。

以前、ロナが病人の治療を行う為にある町を訪ねた。賑わいをみせる大きな町から遠く離れた、小さな村だった。村の奥にある村長の家で、ロナは治療を行い、シキユは部屋の外で彼を待つ。窓に目を向けると、外は暗く、己の姿がガラス戸に映っていた。ふと気が付けば、ロナが居る部屋の前で若い男達が話をしているのが見えた。
「見たか……」
「あぁ、アイツ……」
シキユに他人の会話を盗み聞きする趣味はなく、旅人への物珍しさから集まった若者だろうと気にしてはいなかった。しかし男の言い放った言葉がはっきりと耳にとまる。
「暗闇の魔女だ」
シキユは男達に近付いた。一人の、大きな鼻が特徴的な男と目が合うなり小さな悲鳴をあげた。するともう片方の男が振り向き――こちらは目が糸のように細い――顔を引きつらせた。
シキユは自分の目つきの悪さを幼い頃から自覚していたので、男達の反応はいつもの事だと思った。
目の細い男が口の端を釣り上げて悪趣味な顔を見せる。
「お前、あの暗闇の魔女に付いてる奴だろ?」
「暗闇の、魔女?」
「今この部屋にいるクロマトイの事だよ」
ああ、とシキユは鈍く反応をした。確かにロナは男にしては体つきが細く、身体を覆ったローブの上からでも女と間違うこともありえるだろう。幾つもの噂が屈折して、魔女と言い表されるようになったのか。いずれにしても、シキユはその表現を不愉快に感じた。
すると、部屋のドアが開き、中から初老と見える男が出てきた。治療に立ち合っていた村長だ。
「治療は終わった。報酬を取ってくる」
そう言って彼は部屋を離れた。
奥ではベッドから上半身だけ起おこして、仕切りに身体を気にしている若い女性と、その横でローブを羽織り、仕度をすませたロナが居た。
「待たせたな。今回は少し時間がかかってしまった」
心なしか、息遣いが粗い。治療に“クロ”の力を多く使いすぎたのだろう。
「もう外は暗くなっています。今日はここで宿を借りて…」
「疲れている所悪いのだが」
村長が部屋の前に戻っていた。手には小さいながらも重さのある麻の袋を掴んでいる。
「金を受け取ったらすぐにこの町から出て行ってくれ」
はっきりとした低い声だった。その言葉にシキユは驚きつも、反応をする。
「この村から近い町でも半日はかかる。一晩でいいんだ」
「恐らく、この村に君達を泊まらせる家はない」
初老の男の顔に深く刻まれた皺は、古き伝えを尊び、守り続けてきた刻印のようだった。厳格な空気を帯びている。彼の鋭い金色の目がロナを捉えた。
「貴方の力は偉大だ。しかし、同時に我々にとって恐怖でもある」
“クロ”は忌み嫌われる。それはこの世界のどこだろうと変わりはない。しかしクロマトイであるロナが持つ治癒能力は“クロ”が病として蔓延るこの世界に必要不可欠のものであり、その強力な力こそ人々が古くからクロマトイを恐れる理由でもあった。
「しかし」
「シキユ」ロナの声がシキユの動きを止める。
「行くぞ、シキユ」
「……はい」
シキユは煮え切らない思いで乱暴に報酬を受け取りながら、治療をうけた女性を見る。救われたにも関わらず、女がロナに向けた眼差しは嫌悪と拒絶の混じった冷たいものだった。
シキユは口の中で小さく舌打ちした。
頼りない足取りのロナを気遣いながら、2人は村を離れる。少し歩くと、ついにロナは座り込んでしまった。シキユが慌ててその身体を支える。
「やはり先程の村で休まれた方が――」
「いや、いいんだ」
肩を支えながら呼吸を調える。先程よりも、酷く辛そうだった。
「疎ましく思われながらも、生かされているんだ」
枯れそうな程小さな声で呟く。
「囚人と同じだよ」
そうして目を伏せた彼の姿を、シキユは今でも忘れられなかった。

今、ロナは柔らかなベッドの上で、静かに寝息を立てて眠っている。寝返りをうつと絹のように柔らかい髪が、はらはらと流れた。月明かりが彼の肌を琥珀色に照らしている。薄い布のカーテンは月の光まで遮る事はできずにいた。
「囚人と同じ…か」
この世界をいくら歩いても、逃れる事ができない囚人。
彼にとって、この世界はなんて大きな牢獄だろう、とシキユは思った。暗闇と言われた者自身が大きな暗闇に捕らわれている事に誰も目を向けない。
ロナと共に旅をするにつれて、シキユの旅の理由は少しずつ変化していた。
あの俯いて目を閉じた彼の姿を見た時。
護りたい、と思った。ロナに忠義を尽くし、それこそ己の命が尽きる最期まで彼に仕えたい。今ではそう願うまでになっていた。
しかしシキユがロナに勝手に付いて来ている事には変わらない。彼が自分を邪魔であると言えば別離は余儀なくされる。
幸い、今までそのような事は一度もなく、寧ろ感謝をされてばかりだった。
「(感謝したいのは俺の方なのに)」
放られたロナの手を見る。クロマトイの模様はその手の甲にまで及んでいた。皮膚に絡まるように刻まれた蔦の模様を見て、包みこむように彼の手をとり、自然とベッドの横に膝をついて跪く体勢になる。
「(貴方が自身を囚人と言うのなら、)」
冷たく暗い牢獄に囚われて逃れることができないのなら。
「俺は、その牢獄の窓になりたい」
せめて自分が森の風を、空の光を、世界の温かさを貴方へ届けよう。
扉の無い石の牢獄の救いとなれるのならば良い。
強すぎる光で貴方が消えてしまわないように。
シキユは目を閉じた。しかしロナと同じ暗闇を見る事は出来ない。
触れていた手に涙が落ちた。
「…シキユ?」
その滴に気が付いたのか、ロナに名を呼ばれた。が、彼は目を覚ました様子ではなかった。
「雨が、降っているね」
涙を雨の滴と捉えたようで、シキユは少し安心した。泣いている事を気付かれたくなかった。
「ええ、そのようです」
シキユの姿にロナが気付いていたのかはわからなかった。朧気なままロナは囁いた。
「暖かい雨だ。…すぐ止むと良いけれど」
「…そう、ですね」
返事をして、目を窓の外へ向ける。
月は眩しいほど輝いている。その光は窓を通して、部屋の暗闇を穏やかに照らしていた。







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