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10.天国で会えるといいね



――【イルビコグラの子共たち‐Ishanahon IRUBIKOGURA‐】 ――



私たちは陽の当たらない所にひっそりと住んでいました。
大家族と呼べる程、兄たちと姉たちと妹たちと弟たちがいました。私はその兄弟たちの6番目で、比較的、お姉さんの方でした。そして私には、ほぼ同時に産まれた双子の兄がいます。姿形はよく似ていると言われ、どこへ行くにも一緒でした。
しかし今となっては、唯一の家族です。
私の多くの兄たちと姉たちと妹たちと弟たちは、“奴ら”の虐殺によって、死にました。

“奴ら”とは、私が産まれるずっと前から、この世を支配している者たちです。とても巨大な組織をもち、残酷な兵器を使って私たちを殲滅させる事を望む者たち。
しかし私たちは“奴ら”が居ることで生きる事ができるので、ただ静かに共存すべきだとしていましたが、“奴ら”はそれを望みませんでした。私たちの姿を一目みただけで、恐ろしい巨大な武器を振りかざし私たちを殺していくのです。

そして、私は共に生き残った最後の兄と、部屋の角で息を潜めてそこに居ました。
兄と食料を探し終えて住処へ帰ろうとした時の事です。その帰り道で悲劇は起こりました。私が“奴ら”の目に止まったのです。先へ行く兄を追いかけ、走る間に、“奴ら”が来てしまったのです。暗かった景色が途端に眩しくなり、“奴ら”は私たちには解らない大声を放ちます。それは、叫び声にも怒鳴り声にも聞こえました。
そして一瞬“奴ら”が姿を消した隙を見て、私は急いで兄のもとへ駆けて行きました。もつれそうな足をなんとか動かして、住処へ隠れると、倒れ込むように兄へ抱き付きました。立ち止まっても私の体はがたがたと震えます。“奴ら”が姿を消すのは、あの恐ろしい兵器を用意しているからなのです。兄もすぐに気付いたのでしょう、顔を強ばらせ目を見開いて、じっと入り口を見ています。
暫く静寂が続きました。
私は兄弟たちの無惨な姿を、姉妹たちの悲痛な叫びを思い出していました。私はどのように殺されるのか。体中に痛みを受けて死ぬのか、もしくは毒を撒かれて苦しみ死ぬのか。
ふと気が付くと、兄は私の頭を優しく撫で「前に、兄さんたちが言ってたんだけど」と言いました。
兄も兄たちの居た頃を思い出していたのでしょう。
「僕たちは、死んだら天国に行けるらしい」
天国、という聞き慣れない言葉の響きに私は兄を見つめます。
「僕たちは何も悪い事はしていないじゃないか」
だから、死んでいったみんなも天国にいるし、僕たちが死んでも天国に行けるんだ。
兄の言葉に、私は不思議と震えが治まっていました。視界が、少しだけ明るくなったような心持ちがしました。私は兄に尋ねました。
「天国に、“奴ら”はいないの?」
「あぁ、もちろんさ。だけど天国はとても広いから、そこでもう一度会うのはちょっと大変らしいけど」
天国という場所へ行く途中ではぐれてしまうらしい。
そう言われ、私はがっかりしました。
例え“奴ら”の居ない世界へ行ったとしても、兄と離れ離れになるくらいなら、怯えながらでも、兄との傍に居たいと思いました。
兄と共に生きることが、私が持つたったひとつの願いでした。

突然、眩しい閃光が、外から照らされました。“奴ら”が外で騒ぐのが聞こえてきます。きっとあの細い光を放つ隙間の先で、“奴ら”は私たちを探しているのでしょう。
震える私の手に、兄の手が触れました。
「“奴ら”はお前の姿しか見ていない」兄が言いました。
「複数いるとは思ってないさ」
私は兄が何を考えているのかすぐにわかりました。しかし、それは余りにも恐ろしい事でした。
「僕が気を引くから、お前はここで動くんじゃないよ」
私は泣きそうになり必死に兄を引き止めました。もしかしたら泣いていたのかも知れません。そんな私を見て、兄はまるで幼い子供をあやす時のように、それは優しく微笑みました。
「天国で会えるといいね」
兄はそう言い残し、“奴ら”へ向かって行きました。
“奴ら”の叫び声と、何かが強く叩き付けられ、破裂したような激しい音が幾度も幾度も私の耳に撃ちつけます。嘗てあの音の後に、生きて帰った者は1人もいません。
音が止むと同時に訪れる静寂により、“奴ら”が彼の命を散らせた事を知らせました。
私はただ震えることしか出来ませんでした。“奴ら”の視界に入らなければ殺される事はない。そう考えて、自らの震えを抑えようとしました。
けれど、そうではなかった。
“奴ら”はその恐ろしい兵器を、私の住処へ放ったのです。白いガスでむせかえる住処の中、壁を伝いに逃げようとしましたが、出れば“奴ら”はそこに居ます。私はその時、兄の言葉を思い出しました。
「天国に行けば、みんなに会えるんだね」
兄のいないこの世界に私の望みはありません。
息苦しさに、その場で向けに倒れた私は、祈るように両手を組み合わせ、眠りにつきました。

“奴ら”は時に私たちを先祖と崇め、時に悪魔として恐れる。
私たちは“奴ら”を子孫と甘やかした結果、自らを滅ぼした。
ああ、愚か者はどちらでしょうか。
愚かな私にも救いがあるというならば、せめて先立った兄弟姉妹たちと、そして最期まで共に居た兄と、天国という場所で再び出会いたいと思うのです。






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BGM:遠来未来「懐音~かいね~」




副題のローマ字にして逆さまから読むと「私たち」の正体が…。

正直、やってはいけない何かをやってしまった気分。
私には珍しく2日で書き上げた話でした。

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