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04.まだ起きてたの?

午前2時。廊下へ出ると彼女の部屋から明りが漏れているのが見えた。
「まだ起きてたの?」
扉を開けたときに私が言うべき言葉を言われた。
「こんな時間まで起きてても良いことないでしょ。早く寝なって」
彼女は虫でも追い払うかのように手をひらひらとさせた。
私の方は向かず、前に置かれているパソコンへ顔と視線を向けたままだ。
ことごとく、それはこっちのセリフだ。
「折角だけど、私、コーヒー煎れちゃったから」
そう言って、彼女の部屋の白熱灯のスイッチをつけた。


―【コーヒーブレイク】―


「アンタ居ると集中できないのよねぇ」
そう言いつつも指はキーボードを打ち続けている。
決まったリズムで、
タタタン、タン、タタンタタン、タン、タタン、タン。
彼女の指はいくつもの世界を、人々を、物語を創り、奏でてきた。
そして今も。

彼女は小説家だ。
確か高校生の時、趣味で書いたのが始まり。それが彼女の初めて“完成した”小説だった。
その頃から少しずつ努力を重ね、今はシリーズものを持てる程のちょっとした作家になっている。

「そうそう、あのね」
彼女は指の奏でを止めず、呟いた。
「そろそろやめようと思うの」
一瞬、何を、と訊いてしまいそうになったが、やめた。
「また、お父さんが何か言ったの?」
彼女が小説を書くことに、父は反対していた。
今はまだ安定しているが、いつ収入がなくなるかわからない不安定な職業は親としても不安らしい。
彼女がデビューをして、連載を持って、シリーズをもっても、なお、彼女と親との決着は着いていない。
「まぁ、私も前々から考えてたんだけどね。中々やめられなくて。
 でもさ、歳をとってから安定した職を見つけるのは難しいし。
 このシリーズが終わったら、もう、書くことをやめるよ」
キリが良いから、と言って、彼女は勢いよくキーを打った。

彼女の小説は、たくさんのひとに読まれている。
ファンレターを少しだけ読んだことがある。それは病院で入院している少女からだったり、二児の子共を持つ主婦からだったり、はたまた野球でレギュラーを目指す男子中学生からだったりと、まさに老若男女を問わない。
彼らが必要としているのは、彼女の書く物語だ。
それが無くなってしまうということは、ひとつの世界が消えることと、似ているのかもしれない。

「それ、本心?」

私の言葉で、彼女のキーボードを打つ音が止んだ。
そして、わからない、と言った。
「わからないけど、このままモヤモヤしてるよりは、いいかもしれない」
そういってまた、彼女はキーを打ち始める。
彼女の言葉は“決意”ではなく、“諦め”のように聴こえた。
「それでいいの?」

そんなことで、自分のゆめ、消しちゃっていいの?

小さい頃、彼女は私に絵本を読んでくれた。
そそいて読み終わった後、決まってこういうのだった。
『わたしはね、しょうらい、ずっとおはなしをつくっていくひとになりたいな』

「全てが安定するから。全部、収まるから」
何が“安定”しているのだろうか。私だっていつ会社から追い出されるかわからないのに。
「私にいつも、妥協するな、って行ってるくせに、自分は人生も妥協するの?」

カタ、タ。
このとき、暫くの沈黙があった。実質、数秒だったのかもしれないが。
「ありがとう。でもね」

「もう、決めたんだ」

カタン。

キーを打つ音が、終わった。
私は何も、言えなかった。

『わたしのゆめはね、せかいじゅうのひとに、わたしのおはなしをよんでもらうことなの』

「もう寝たら」
白いコーヒーカップには茶色い跡が残っているだけ。私はここに居る理由はなかった。
「おやすみ、お姉ちゃん」

「うん、おやすみ」

私は静かに

彼女の部屋を後にした。





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BGM:Litty『夢の続き/オルゴールver』


タタタン、タタタン。

彼女は夢を奏でるよ。

タタタン、タタタン。

彼女の最期の、儚い夢。

タタタン、タタ…タ…カタン。

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