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17「燃え移ったらどーすんだテメェ!!」

補足:草八(そうはち)、灯(あかし)、澄(ますみ)、と読みます。



――【横顔】――



日差しは暖かいが、空気が刺すように冷たい。季節はようやく長引いた残暑から秋を迎えたばかりであるのに、既に冬が近くで待ち構えているようだった。この日、大学の講義を終えた草八に、突然とある後輩から電話がかかってきた。
『草八さん、花火やりましょう』
この後輩が何かを始める時は必ず唐突だった。秋が終わり、冬の前に来る木枯らしのような前触れなどは存在しない。
『先日、花火を沢山貰ったんです。季節も変わりますし、折角なんで他にも知り合い呼んで全部やっちゃいましょう』
落ち葉が揺れ、セーターとマフラーが愛おしく感じるこの時期に相応しくない語の序列を聞いた草八は、思わず尋ねていた。
「なぁ灯。今、何月だっけ?」
草八の言葉に灯は、何ですか突然、と心底不思議そうな声を上げて、続けた。
『今は10月ですよ。じゃあ明日の8時にいつものグラウンドでやるんで来てくださいね。今の所、来る予定なのは』
相手に相槌すら打たせず一方的によく喋る奴だと感心しながら、彼の言葉が区切れるのを待った。
花火をすること自体は悪くない。しかし草八は大人数で騒ぐことが苦手である為、この誘いを断わるつもりでいたが、話が終わる最後の一言によって、了解の返事を出さざるをえなかった。
『あ、それと、澄さんも来ますから』

***

「だから、火をつける時は風向きを考えるんだよ」
「んー…こうか?」
「うわっ!灯、危ない!」
「燃え移ったらどーすんだテメェ!!」
少し離れた場所で灯達の騒ぐ声が聞こえた。辺りは暗く、ぼんやりとした形でしか彼らを見ることは出来なかったが、恐らく灯がまた何かやらかしたのだろうと草八は年下の友人達を微笑ましく眺めていた。
「あなたは行かなくても良いんですか?」
声をかけられてふと横を向くと、澄が隣に立ち、缶コーヒーに口をつけていた。
「俺はここで静かにしている方が楽なんだ」
初めは灯達にも近くに居るよう誘われたのだが、荷物を見ておくと理由をつけてグランドの端にあるベンチに座って居た。
「草八さんらしいですね」
そう言って澄は隣に腰を下ろし、ジャケットのポケットから何かを取り出した。
「寒くないですか?これ、暖かいですよ」
差し出された手には先ほど飲んでいたものと同じ銘柄の缶コーヒーがあった。礼を言って受け取ると、缶の熱が冷えた指先に触れてじんと鋭い熱さを感じた。
頬に当てるともっと暖かくなりますよ、と澄は自分の缶を頬に当てて言った。
それを真似して草八も同じ様にする。少し身体が強張っていた。
広いグラウンドの中、地面の近くに小さな明かりが灯る。先程から騒ぎの中心となっている場所だ。とたんにその明かりは2、3と数を増し強い光となり音を立てながら鮮やかな火を散らしていった。
「ついたー!」
灯たちはどうやら無事に火種を点けることが出来たらしい。鮮やかな色の火花が次々と増え、煙が風に流れていった。
「点いたみたいだな」
「そうですね、良かった」
「澄は…行かなくて良いのか?」
元々喋る事が得意でない性もあるが、舌がうまく動かないのは寒さのせいだけでは無かった。
「実は私もこうやって眺めている方が好きなんです。ご迷惑でなければこちらに居させて頂きたいのですが」
「…別に、構わない」
寧ろこのまま傍に居て欲しい。そう言いたかったが伝えることに躊躇し言葉にはならなかった。
パラパラと遠くで弾ける花火を見ながら澄の話を聞けば、今日は灯に無理やり連れてこられたのだと言う。
「実はあまり、花火が得意ではないんてす」
遠くから眺める事は構わない。しかし強すぎる光は眩しく、近くに居ることすらままならないという。一種の恐怖に近いかも知れないと、澄は言った。
「灯は相手を考えないからな」
「でも、理解はしてくれているんですよね」
その点においては草八も同感だった。

「マスミさーん!!」
噂をすれば、灯が大声を出してこちらに両手を大きく振っていた。花火が閃光を放ち、不思議な模様が目に焼き付く。
無邪気に騒ぐ共通の友人は、澄の性格を深く理解している。無理に自分の方へ誘うということはしなかった。
手旗信号を送るような灯の動きは、何かを伝えたがっているようにも見えた。くるくると回る光の線はいつしか形を作り楕円や三角を描き、そしてハート型になった。彼の様子に、澄は穏やかに微笑みながら手を振り返している。しかし直ぐにその顔から笑みは消えた。「どうして」
澄のか細い声は聞こえない程の囁きだった。
“どうしてこんなにも私なんかを慕ってくれるのでしょう”
それはいくら強い光でさえも照らす事の出来ない深く寂しい囁きだった。
いつの間にか花火の明かりが無くなり静寂と暗闇が訪れる。隣に座る澄がこの暗闇に溶けて消えてしまうような気がしてならなかった。
シュッと軽快な音を放ち、花火が打ち上がる。冷えて空気が澄んだ夜空に多くの星が煌めく中、花火はひときわ強い光を放つ星のように輝き、流れて、消えた。幾つかの花火が同じように打ち上げられては、消えていった。
火が消えた位置から光を無くした硝煙は風に吹かれ、月の光を遮り、その形を映し出していた。いつの間にか草八は、一瞬にして輝きを失う花火の光よりも暗い星空に溶けて行く儚い彩雲に目を奪われていた。
「草八さん?」
澄の声に、草八は意識を引き戻される。
「どうかしましたか」
草八は花火が打ち上げられている方向より少し外れて顔を向けていた為、澄が不思議に感じたのだろ。加えて、その方向には澄がいる。端から見れば澄を見ている様にも取れただろう。草八は慌てて弁解をした。
「月を、見ていたんだ」
何故咄嗟に煙を見ていたと言わずに嘘を吐いたのか自分でも分からなかった。
澄が横を向き、欠けた月を見た。
「少し欠けてますね」
「あぁ、でも」
言葉に詰まった。直感的に思い付いた言葉を口に出すことが気恥ずかしく感じられたのだ。
「綺麗だと、思って」
草八に視線を向けた澄の顔は少し驚いたような、照れているようにも見えた。はにかむような優しい顔だった。
「そうですね。とても綺麗です」
夜空は再び、星と月だけが存在する静寂を取り戻していた。


「草八さん見て見て!蛇花火が凄いことになった!」
「持たないでよ気持ち悪い!」
「おい澄!灯をなんとかしろ!」
友人達の声は地上の静寂を乱暴に壊し、草八にここがグランドである事を思い出させた。
一通り観賞用花火を終えた彼らは、残りのバラエティーに富んだ花火を持て余していた。
その様子に草八は呆れながらも思わず笑っていた。
「お前ら、中学生か」
「えっ何それ酷ぇ!」
横を振り返れば、澄も笑っていた。
「2人とも全然花火やらなかったじゃないですかー」
「せっかくなんだから線香花火くらいやろうよ」
一人が澄の手を引き、もう一人が糸状の花火を手渡しながら、小さな火の点いている所へ澄を連れて行った。
「草八さんも行きましょう」
草八もまた誘われ、光の下へ行く。歩きながら、灯は訊ねた。
「遠くで見てて面白かったですか?」
「…悪くはない」
それに、光は遠くから見ている方が良い。
そう答えて、草八は冷めた缶コーヒーを飲み干し、舌に残る苦味の余韻に浸った。








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***

BGM:遠来未来「あなたに~Pianosolo~」


反省点。
・人物描写全く書きませんでした
・澄の性別をぼかしました
・灯を友人その1にするか迷いました
・とりあえず自分の書きやすさ重視してしまいました

なんてこったい。
ぐずぐずですが、それなりに書いてて楽しかった。まる。



さうですね、斯う云ふ時は月が奇麗ですねとでも云つて置なさい。



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