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14.くそっ……あのオカマ野郎!!

※注意※
この小説は、軽い同性愛表現が描かれています。
苦手な方はご注意ください。



と言っても本当にぬる~いです。
BL小説、なんて気合いの入ったものでないです。
そして長いので、それでも読んでくださる方はどうぞ。







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関東地方に来て数年。
一人暮らしは厄介やと、未だに思う。
生活の資金は全部自分で管理せなあかんし
深夜に家に帰っても家事はやらなあかん、
その上、酒に酔い潰れた友人を泊めたりもせなあかんから。


――【ふたり】――


その日は仕事が休みで、一日中家の中に居ようと決めた日だった。
新聞を隅々まで読んだり、CMに惹かれて買っただけの状態だったゲームを始めたり、滅多に見れないゴールデンタイムのバラエティ番組を見たりして、そのまま夜になった。
ピンポン、と玄関のベルが鳴ったのは丁度深夜帯のスポーツニュースが始まった時。
「あーきーちゃん!」
ドアを開けるや否や、キツい鼻に付く臭いと体格のいい金髪の巨体が倒れかかって来た。
避け切れなかった俺は当然バランスを崩し、盛大に床と衝突する。
「おま……こぐれ!?」
「この近くでぇ飲み会やってたの!けえちゃんの部屋の電気が点いてるの見えたからぁ、来ちゃった!」
そう言って大学以来の友人は、がははと大口で笑った。鼻に付くこの臭いはアルコールか、女物の香水か。いずれにしても彼の見た目と合わさって強烈なものになっていた。
俗に言う“オネェ言葉”で喋くる小暮は相変わらず派手な色の服を光らせていた。
「なんや、うち来よっても前みたいに酒は出さへんぞ!」
「やん!あきちゃん相変わらずつめたいッでもそこが可愛いッ!」
「えぇからはよどかんかい!」
俺が怒鳴ると小暮は太い腕を持ち上げて、そうそう、と呟きながら一旦玄関から外へ出て何かを引き摺り入ってきた。
「このこ、一緒に呑んでたんだけどぉ、珍しく酔い潰れちゃって起きないからぁ、泊めたぁげてッ」
そう言って放り投げたのは、見覚えのある小柄な男。
「藤乃!?」
「大学以来のおともだちデショ。男同士、何か間違いもあるわけじゃないし、一晩くらい良いじゃない。アタシ今からお仕事だからぁ。まかせたわよぉ~」
「お、ちょっ、コラ、おい!」
引き止める間もなく小暮は玄関から外へ出ていった。高いヒールを履いていた癖に、俺が玄関から廊下に出た時には既に姿が見えなくなっていた。
「くそっ……あのオカマ野郎!!」



「(なんで、よりにもよって、こいつなん)」
まさかとは思うが、これは仕組まれたんやろか。
そう思ってしまうくらい、出来過ぎな状況だと思った。
とりあえず玄関に寝かせて置くのも何だから自分のベッドに連れて行くことにした。引き摺っても良かったが持ってみたら意外と軽く、これは、と思い試しに背中と膝の下に腕を通して持ち上げた。
「(お姫様抱っこや)」
現恋人にすらした事もないのに、ましてや男が男をお姫様抱っこするなんて奇妙の他ないだろう。が、俺の家の中だから、幸いそう思われる事はない。
「(こいつがうち来んの、ホンマ久しいなぁ)」
藤乃とは小暮同様、学生時代はいつもつるんでいた仲で、当然何度もうちに来た事がある。
だけど、お互い就職してからは全く交流がなく、まさか久々の再会がこんな形になるとは思いもよらなかった。

友人を起こさないように静かに自分のベッドへ下ろしたつもりだったが、ミシ、と音をたててしまった。
だが当の本人は小声で唸っただけで起きる気配はない。
別にそんなに気にしなくてもいいのだろうけど、相手が彼だから嫌でも気にしてしまう。
「(やっぱ今もそうなんやな、俺)」
学生時代から気付いていた。
俺は、この、藤乃という男を
特別な感情で意識してしまっている。

別に特別、男が好きという訳ではない。現に今、俺には彼女もいるし、藤乃以外の男にはこんな感情を持った事もない。
藤乃に対してのみ、なのだ。

「(ありえへんよなぁ)」

もちろん本人には言える訳がなく、だからこんな感情をなかったことにしようと自分自身に言い聞かせて、あえて自分から交流する事を避けていた。
それで忘れようと、思っていたのに。
友人の眠るベッドに肘をもたれて体を傾けた。
しいて言うなら、藤乃はちょっと女顔で、全体的に細身だ。手首なんて特に骨張っとって、ちゃんと飯食っとるんかっつーくらいで……
「(…ッて俺どんだけやねん)」
脳内ノリツッコミが終わったところで改めて顔を見た。
「(…こんなんなるまで呑むなや…)」
彼は常に先を見据えて自分の中で答えを出し、それが常識で正常と思われるならば突き進むのだが、異常と思われるならば延々と正しい答えを出そうとする癖を持っていた。
厄介なのは、それを一人で抱え込むという事。
そういう時は、決まって酒のセーブをきかせずに呑みまくるのだと、過去に彼が言っていたのを思い出して、ふと熱のせいか紅くなっている彼の頬に触れてみた。
「(…やわっけー…)」
ほんのりと俺の手よりも温かく柔らかい。
特別な感情を抱くと、こんな小さな仕草にも緊張してしまう。
ゆっくりと頬を撫でた時、ふと指先に濡れた感覚がした。
「……藤乃?」
目からうっすらと、つたうものを見た。
「泣いとん…?」
ぎゅう、と体の中心が絞められた気がした。

頬に触れる手に罪を感じて、起こそうか起こすまいか迷った時、沈黙を壊す電子音が部屋中に鳴り響いた。
黒光りする俺の携帯がビイビイと枕元で振えながら音楽を響かせている。
「ヤ…バッ!」
驚きと焦りの勢いで枕元の奥にある携帯を掴んで音を止めた、が。

「たか…やま…?」

目が合った。
気がつけば今の体勢は、まさに男が女に覆いかぶさってベッドインなその状態。

顔が近い。


終わった、と思った。



「高山…ッ!」
「わ、悪いな!すぐのくわ!」
慌てて言葉を遮り、起き上がった。このままの状態で会話をすれば確実にボロがでることは予想がついた。
「そや、水、持ってこよか!」
このまま誤魔化して忘れてもらおうと、一旦台所へ向かうつもりだった。
だが、立ち上がろうとした時、後ろから袖を引かれた。
「ここに……居てくれ…」
振り向けば藤乃に左袖を掴まれ、その震えた声と指先が俺をそこへ止どまらせた。
「…どないしたん、藤乃」
顔を伏せた彼の表情はわからない。
せめて少しでも近付けるように、彼と向き合うように体を向けた。
「俺でえぇんならなんでも聞いたるよ。…なして泣いとるん?」
脆く壊れやすくなっている彼を傷付けないように、問い掛ける。
藤乃は俺の袖を掴んでいた手の力を弱めて、わからない、と呟いた。
「どうすればいいか、わからないんだ。ずっと考えても先が見えなくて、真っ暗で、息苦しくて…。
 でも、どんなに考えても、わかってるんだ。これは正しくない事なんだって」
彼は静かに呟いた。
その"正しくない事"が何なのかは解らない。俺はこいつを想うだけで、何も理解してやれないことが悔しかった。
俺は藤乃の救いにすらなれないのか。

それなら、せめて。
彼が泣かないで、笑顔で居られる立場であれば良い。そう思った。
「あのさ、藤乃」
決意を固めて、藤乃に向き合い、言った。
「俺は、藤乃の泣いている顔は見たないねん。笑とる顔が見たい。せやから、藤乃が笑う為なら、どんな事だろうと聞いたる」
藤乃の顔を覗いてみる。
「せやから、話してくれん…?」

そしてやっと藤乃が顔をあげてくれた。涙で潤んだ瞳には俺がしっかりと映っている。
「なぁ。一生のお願いだから、オレの事を嫌いにならないでくれな」
「約束する」
俺が頷き、そして藤乃は震える唇からこう言った。

「オレ、お前のことが好きなんだ」


藤乃の言葉が俺の全てを、一瞬にして停止させた。
思わず口から零れたのは「嘘」なんて呆れた一言。
「それは……友達としてでは…」
「ごめんやっぱナイよな。悪ぃ…帰るよ!」立ち上がり玄関へ向かう藤乃を、俺は後ろから抱き締めた。
「ほんまやな、マジで受け取ってええんやな」
藤乃の肩が震える。身体の音が聞こえる。
俺だけじゃない。辛かったのはは藤乃も一緒だったのだ。
彼を泣かしたのは、紛れもない。
俺自身だ。
うろたえた藤乃を、俺は抱き締めて離さなかった。
そして、俺が喜びと同時に彼の返事に応えた事は言うまでもない。

あぁ、一人暮らしは厄介や。
誰も止めようとするヤツがおらん。

もしこんな時に彼女が来たらどうしようかと考えて、やめた。
まぁ、ええか。

せめて今だけは誰にも邪魔されんように、
携帯の電源は切っておこうか。







BGM:ONE's『ブルーランド』


最大のオチは、
キューピッドが巨体のニューハーフだった事。

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