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15.死ぬなんて言うな

ピ、という電子音が勢い良く弾かれた。

美穂は、自分の正面に座る友人――敬子の顔を見る。彼女は先程まで黙って携帯電話を見つめていたが、ようやく手を止めて口を開いた。
「最近、ヨシアキが変なの」
美穂はここで彼女に「何かあったの?」と訊かなければならなかった。
この話を聞く事が、今日、自分がここに居る理由だった。


――【2人】――


「あの関西イケメン彼氏さんがどうかしたの?」
ヨシアキとは、敬子が3ヶ月前から付き合っている男性の名前だ。
「私と会ってる時に、なんかぼけーっとしてることが多くなってるの」
美穂は「はぁ」と相づちを打つ。それ位のことは、いまいち変とは思わない。
「私が話しかけても興味なさそうだし。ため息よくするし」
元々は敬子から付き合いを申し込んだ間柄だ。付き合い当初は、彼氏が如何に格好良いかを散々聞かされたものだった。
相手が居ない間もそんな様子だったのだから、実物に対してなら一体どれくらいノロケていたのだろうと美穂は考えた。
「彼氏さん、疲れてるんじゃない?」
「ユキ君はどうなの」
突如として出された名前に美穂は僅かながらに反応をした。
「ため息ついたり、話に興味なさそうにしたり、何かとダルそうにしてないの?」
自分の相方が引き合いに出される事は、相談上、考えなくもなかった。
しかしそんな事を考えても相手が違うのだから参考にはならないだろうと、美穂は思っていた。
「まぁ、アイツの場合はボーっとしてる時が殆どだし、」
そんな時に彼が考えている事は、彼を知る者なら大体想像はつく。
仕事か、趣味か、ある特別な友人のことだろう、と。
「特別な?」
「そう」
彼を知らない人に、彼の友人の説明をするのは少し面倒だった。
「でも、私の話は聞いてくれるし、今までと変わる事はないかな」
ふうん、と相づちを打った敬子は、特に満足な答えを得られなかったようで、ティースプーンをカップの中に遊ばせていた。
そして、前はあんなんじゃなかった。最近はキスも向こうからしてくれない。と、敬子は栓が外れたように思いを吐き出した。
「もうね、あれは確実に――」
敬子が言いかけると同時に、ガシャンと陶器が激しく揺れる音が背中越しに響いた。気になってしまうのが人の性、躊躇しながらも音の方へ視線を向ける。
「死ぬなんていうな」
男の声が喫茶店に響く。昼間から物騒な単語を聞いてしまった。
「でも、私にはコージしかいないの。別れるなんて嫌!」
彼女らしき女性の声は、泣いているのかやや掠れぎみだが、はっきりと聞き取れた。
「だから俺は別れたくないって言ってるじゃないか」
「でも浮気してるんでしょ?」
「あれは仕事が入って」
「仕事と私どっちが大事なの」
昼のメロドラマさながら、現実味のない台詞を聞いてしまったと思わず目を見開いていた。
見続けるのも居たたまれず、頭の向きを元に戻すと、目の前の敬子は頬杖をつき、興味がなさそうに呆れているようだった。
「女々しい、って、ああいう事をいうのかしら」
「どっちが?」
美穂には、自己満足の為に泣く女と、自己の意見を持たない男の両方が、女々しく見えた。
「あ、でも2人とも女だったら百合になっちゃう」
「…公共の場で平然とそういうこと言わないの」
ピシャリと注意をされた。
「……ねぇ美穂。さっきまで私たち何を話してたんだっけ」
敬子が頼んだケーキは既に無くなり、共に出されたホットミルクティはすっかり冷めていた。
美穂は、彼女がそのカップに手をつけないのを見て、まだ話が続く事を直感する。
「とりあえず、敬子はヨシアキ君に電話をしてみたらどうでしょうか」
「突然ね」
「今は仕事中だろうし、夜にでもかけてみたら?」
「……夜か」
暫く黙りこんだ彼女は、何かを思いついた悪女のように口の端を吊り上げた。
「案外、浮気相手とお楽しみ中を邪魔するのも悪くないわね」
何も、今夜必ず浮気相手が彼の部屋にいる訳でもなかろうに。ヨシアキ君も大変だな、と美穂は以前見た事があるだけの、友人の彼氏に同情をした。
「電話に出なかったら承知しないんだからねー!高山芳明ー!」
まるで戯曲に出てくる王を演じるように、決意表明をする友人を少し恥ずかしく思いつつ、美穂は男女の恋愛について考え始めたが、店員が運んできたチョコレートパフェを目にするなり、考える事をやめた。






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BGM:音楽の卵『ローザのキッチン』


「恋は駆け引きとか、戦争とか言うけど、
 そんな荒々しいことは正直ごめんだわ」
「そんなんだと、アンタのもいつか誰かに盗られちゃうよ?」
「盗る気?」
「無きにしも非ず?」
「やめといた方がいいよ、あいつは女より男のが好きだから」
「え」
「男『の友達と遊ぶ』のが好き、という意味です」

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