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12.頼むから水をくれ

「嗚呼、旅人」


頼む、どうか。


――【A thirster】――


焼きつけるような太陽の光には汗さえも影を映す。地平線は熱に歪み、足下から続いてゆく砂から無限を感じる。嗄れた喉に棘のような乾いた空気を吸いながら、歩みを続けた。
此処へ来たのは何時からだったか。もはや暑さに記憶は曖昧だった。

目の前に立つ旅人に出会ったのは少し前、彼はこの広大な砂漠にひどく似付かわしくない存在であった。
薄い青色の絹でポンチョのように身を包み、それが余計に異邦的な空気を醸し出している。金色の首飾りの中心部には蒼く澄んだ水晶が光る。頭より一回り以上も大きく丸い紅色の帽子、その上部には細かな宝石が飾られており、彼が緩やかに動く度、シャラン、と装飾が涼やかに音を響かせて揺れた。
「ああ、ここは砂漠か」
遙か彼方に目を向けて、その旅人はふと呟いた。
彼の周りには風が吹いているようだった。近くに居るのに、遥か遠く異なる世界が在るような、奇妙な錯覚がした。
「ああ、砂漠だ」
この返事も、彼に聞こえているのかわからない。
「すまないが、ひどく喉が痛むんだ」
声を出す為に通る空気に喉を焼かれるような痛みが走る。
「水を分けてはくれないか」
なんとか声を絞り出し、旅人に水を乞う。
「水ならそこにあるだろう」
私を見て彼は言う。私の腰に下げている麻袋を指しているのだろうか。
「この袋には、もう入っていないんだ」
逆さにし、見せるように振ってみた。
そんなんじゃない、と、こちらへ唄うようにゆっくりと彼は歩み寄ってきた。
「君は水に溺れてる」

暗い暗い水の底。
見える景色は何色だい?

旅人は言う。風が吹く。シャラン、という音がした。
我に帰り、目が眩む程の太陽光に苛立ちを感じ始めた。
「あんた、何を言っているんだ」
俺はからかわれているのか。顔は陰に隠れ表情はわからない。
「頼むから水をくれ」
痺れをきらし、思わず怒鳴るように声を出して、旅人の服を掴んだ。顔を見上げた刹那、彼の異形に目を奪われる。
旅人の瞳は左右それぞれ、異なる色を帯びていた。
深紅の右目、紺碧の左目。
その目付きは、蛇。
「気になる事でも在ったかい」
彼は三日月の様に目を細めた。
ぞくり、と背中に冷気を感じた。
先程までの焼け付く太陽は何処へ行ったのだ。空は暗く、凍えるような冷気が身体を覆う。風は吹いていない。震える身体を両手で支えようと抑えるが耐えられず膝をついてしまう。
「君はどうして此処に居る?」
突然の息苦しさに襲われる。酸素を欲して呼吸をするが、上手く取り入れる事が出来ない。次第に意識が遠のいて行く。横に倒れた。――ああ、沈む。
ひどく冷たい水の中に私の身体は勢いよく落ちてゆく。力を入れて手を伸ばしたが掴めるものも無く、ごぼり、と気泡を吐いた。暗く寒く、次第に身体の自由がきかなくなる。
ついに足掻くことを止めた時、シャラン、と金属の音を最後に、記憶は途絶えた。



「大丈夫ですか」
目が覚めた時には、喉の渇きも息苦しさも感じなかった。
微かに痛む身体を起こし、砂を払う。
「こんな所で倒れてるなんて、死んでるのかと思いました」
声の主の青年は鮮やかな深緑のマントを羽織り、背後にはロープで縛られた大きな荷物が引きずられていた。彼もまた、この砂漠を行く旅人なのだろう。
私は砂漠に戻っていた。先程までの出来事は何処から幻だったか。溺れた感覚はあるが、衣服に濡れた跡はない。
そういえば、あの男の姿が無い。
「あの男は何処へ行った?」
「男…?」
青年が来た時、ここに倒れていたのは私一人のようだった。暑さで気が変になっていたのか、蜃気楼と間違えたか。どちらにしろ呆れはて苦笑する。
「何か妙な事でも?」 
青年は不思議そうな顔をしたが、今起こった事を話しても暑さで気が狂ったと思われるだけだろう。 
「いや、なんでもないんだ。すまない」
そうですか、と青年は言い、手を差し伸べて体を起こす助けをしてくれた。
私は立ちあがり、改めて礼を言い、同じ目線の高さにあった彼の顔を見る。。
「水に溺れて沈む事、砂漠に取り残される事」
青年が囁いた。
「これらはとても似ています」
風が、私達の服を靡かせて通り過ぎた。
「でも、あなたは大丈夫ですね」
青年は微笑み、私の腰の麻袋を指差して言った。
「それを持ってるのですから」
私が麻袋を持つと僅かな重みがある。中のモノを取り出して、私は少なからず驚いた。
それは大切な人から預かっている小さな首飾り。
シャランと清らかな奏でを聴き、それを丁寧に手の平へ置いた。
ああ、そうか。
私は忘れかけていた。
帰るべき場所がある。
町へのご案内は不要ですね、と青年に問われたので、ああ、と私は頷いた。進むべき方角を思い出した。
「それは良かった」
では、お気をつけて。
そう言って青年は歩いて行く。私は彼に背を向けて、歩き始めた。太陽が沈む。静かに冷気が漂い始める。またしても夜が来るのだ。
はたと青年の囁きを思い出す。なぜ彼は私が見た幻を知っていたのか。笑う青年の顔をーー瞳の色を思い出した時、弾かれるように私は振り返った。
深緑のマントは見当たらない。静かに風は砂を舞い上げて過ぎて行った。





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15.死ぬなんて言うな

ピ、という電子音が勢い良く弾かれた。

美穂は、自分の正面に座る友人――敬子の顔を見る。彼女は先程まで黙って携帯電話を見つめていたが、ようやく手を止めて口を開いた。
「最近、ヨシアキが変なの」
美穂はここで彼女に「何かあったの?」と訊かなければならなかった。
この話を聞く事が、今日、自分がここに居る理由だった。


――【2人】――


「あの関西イケメン彼氏さんがどうかしたの?」
ヨシアキとは、敬子が3ヶ月前から付き合っている男性の名前だ。
「私と会ってる時に、なんかぼけーっとしてることが多くなってるの」
美穂は「はぁ」と相づちを打つ。それ位のことは、いまいち変とは思わない。
「私が話しかけても興味なさそうだし。ため息よくするし」
元々は敬子から付き合いを申し込んだ間柄だ。付き合い当初は、彼氏が如何に格好良いかを散々聞かされたものだった。
相手が居ない間もそんな様子だったのだから、実物に対してなら一体どれくらいノロケていたのだろうと美穂は考えた。
「彼氏さん、疲れてるんじゃない?」
「ユキ君はどうなの」
突如として出された名前に美穂は僅かながらに反応をした。
「ため息ついたり、話に興味なさそうにしたり、何かとダルそうにしてないの?」
自分の相方が引き合いに出される事は、相談上、考えなくもなかった。
しかしそんな事を考えても相手が違うのだから参考にはならないだろうと、美穂は思っていた。
「まぁ、アイツの場合はボーっとしてる時が殆どだし、」
そんな時に彼が考えている事は、彼を知る者なら大体想像はつく。
仕事か、趣味か、ある特別な友人のことだろう、と。
「特別な?」
「そう」
彼を知らない人に、彼の友人の説明をするのは少し面倒だった。
「でも、私の話は聞いてくれるし、今までと変わる事はないかな」
ふうん、と相づちを打った敬子は、特に満足な答えを得られなかったようで、ティースプーンをカップの中に遊ばせていた。
そして、前はあんなんじゃなかった。最近はキスも向こうからしてくれない。と、敬子は栓が外れたように思いを吐き出した。
「もうね、あれは確実に――」
敬子が言いかけると同時に、ガシャンと陶器が激しく揺れる音が背中越しに響いた。気になってしまうのが人の性、躊躇しながらも音の方へ視線を向ける。
「死ぬなんていうな」
男の声が喫茶店に響く。昼間から物騒な単語を聞いてしまった。
「でも、私にはコージしかいないの。別れるなんて嫌!」
彼女らしき女性の声は、泣いているのかやや掠れぎみだが、はっきりと聞き取れた。
「だから俺は別れたくないって言ってるじゃないか」
「でも浮気してるんでしょ?」
「あれは仕事が入って」
「仕事と私どっちが大事なの」
昼のメロドラマさながら、現実味のない台詞を聞いてしまったと思わず目を見開いていた。
見続けるのも居たたまれず、頭の向きを元に戻すと、目の前の敬子は頬杖をつき、興味がなさそうに呆れているようだった。
「女々しい、って、ああいう事をいうのかしら」
「どっちが?」
美穂には、自己満足の為に泣く女と、自己の意見を持たない男の両方が、女々しく見えた。
「あ、でも2人とも女だったら百合になっちゃう」
「…公共の場で平然とそういうこと言わないの」
ピシャリと注意をされた。
「……ねぇ美穂。さっきまで私たち何を話してたんだっけ」
敬子が頼んだケーキは既に無くなり、共に出されたホットミルクティはすっかり冷めていた。
美穂は、彼女がそのカップに手をつけないのを見て、まだ話が続く事を直感する。
「とりあえず、敬子はヨシアキ君に電話をしてみたらどうでしょうか」
「突然ね」
「今は仕事中だろうし、夜にでもかけてみたら?」
「……夜か」
暫く黙りこんだ彼女は、何かを思いついた悪女のように口の端を吊り上げた。
「案外、浮気相手とお楽しみ中を邪魔するのも悪くないわね」
何も、今夜必ず浮気相手が彼の部屋にいる訳でもなかろうに。ヨシアキ君も大変だな、と美穂は以前見た事があるだけの、友人の彼氏に同情をした。
「電話に出なかったら承知しないんだからねー!高山芳明ー!」
まるで戯曲に出てくる王を演じるように、決意表明をする友人を少し恥ずかしく思いつつ、美穂は男女の恋愛について考え始めたが、店員が運んできたチョコレートパフェを目にするなり、考える事をやめた。






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07.泣け

一匹の鬼と一人の娘の御伽話。

今は昔、ある深い森の中、一匹の鬼が住んでいた。
近くの村には七年に一度、山の奥の洞窟へ村の豊作を願い、娘を捧げる儀式が有った。
『今宵、神の怒りを鎮める為に娘を捧げん』
『我が村に豊作の契りを』と。

――【朱き実つけよ実葛(サネカズラ)】――


「(また、か)」
闇に浮かんだ金の眼が二つ、音無く篭へ歩み寄る。
篭の中身は二つに一つ。恐怖に敗れて泣く娘か、人を憎み仇とする娘。
いづれにしても、今迄見てきたこの籠に入た者は全て、己が感情を露に見せ、彼を見るのち、泣き喚いた。
「(厄介な事だ)」
彼は物の気。人と似て非成る者。頭に生える二本の角が人外の証。
籠を開ける前に、鬼は「おい」と一声、呼び掛ける。
「村の者はもういない。外へ出て、好きな所へ行くが良い」
そう言い捨てて、そこから離れ、樹々の影に身を潜めた。娘が無事に篭から出て、帰る姿を見届けるために。
しかし、この時ばかりは様子が違う。いくら待てども、篭から物音ひとつ聞こえてこない。娘が出て行く気色もない。
鬼は気掛かりになり、二度び籠に歩み寄り、煩わしく思いつつ、籠を開けた。
そこに娘は居た。しかし怯える事も狂う事もしていなかった。
娘は静かに、小さく息をたて、眠っていた。
鬼は例にみない娘を見て、驚嘆しつつも考えた。こいつを一体どうしよう。森に置き去りにしては獣に襲われかねない、と。
鬼は娘を住処へ連れて行き、静かに寝かせ、近くに寄ろうともせず、遠く夜が明けるのを待っていた。

森に光が射し始め、娘が目覚めたのは丁度その頃、鬼を見ても泣かず狂わず、静かに「此処は」と呟いただけだった。
「俺の住処だ」と
鬼は応える。

「私は喰われるのですか」
と娘はあまりに静かに問い掛けた。
鬼は話した。今まで生贄として捧げられた娘たちは、全て喰ってなどいない。娘と同じような方法で逃がし、何処か遠くへ行ったのだ、と。後に、お前は殊だった、と付け加えて。
「私は如何すれば」と囁いたので
「村へ帰り、親と隠れて暮らせば良い」と言えば
「親は死にました」
と娘は言う。
鬼を見つめる娘の瞳は人形の様に冷たく鈍い。
温かな『生』というものが、全く感じられなかった。
試しに鬼が「泣け」と威嚇してみれど、顔色を変えず静かに鬼を見続けた。
「泣けば、宜しいのでしょうか」
瞳は漆黒。光も無い。
「もういい加減、どこへでも好きな処へ行けば良い」
「好きな処、ですか」
そうして娘は立去るもの、だと思うや否や
「此処に居ます」と応え鬼の隣りへ腰を下ろした。
鬼は目を円くした。考えもしなかった。

其れから鬼の住処には娘が居る。
娘の口数は少ないものの、鬼に興味はあるようで、いつもその着物なのか、風呂は入っているのか、終いには双六は強いかなど、他愛のない事までも知りたがった。
しかし、何時しか鬼にもそれが自然となっていた。娘が住み着き幾度目かもわからなくなった陽が沈む頃、ふと、娘は呟いた。
「例え叶わぬ願いでも、貴方は聞いてくれますか」
「聞くだけなら」
鬼の応えにくすりと笑い、空を見、娘は囁いた。
「何時か来世が有るのなら、また貴方と出会いたいと思うのです」
「其れは鬼として、か」
「貴方と共に居られるなら、鬼と成るのも構いません」
「…面白い」
その時の娘の瞳には冷たさは感じられなかった。

――或る、月の見えない深い夜。
遂に娘の呼吸は荒くなる。
鬼は物の化、触れれば特異な妖気に毒される。この娘も例外ではなかった。
鬼は慣れない病に慌て慌てふためき、
床に伏した娘に限りを尽くす。
娘は簪を手に取ると、そっと鬼へ手渡した。
「この花を持っていて下さい」
薄黄金色の花を象る簪飾りは、美しく儚い娘とよく似ていた。
「私は先に朽ちようとも、この花を頼りに貴方を探し、必ずや見つけだしましょう」
鬼は娘の白き手をそっと己の頬に当て、赤き手で包む。頬には雫が伝い落ち簪の花を濡らす。
「来世で貴方を待っています」
糸の様にか細い声は、次第に冷えて
なくなった。


鬼は哀しみに暮れ、泣き続けた。



いづれ鬼も土に還る時が来る。
その最期の時、彼を看取る鳥達へ、詠うように呟いた。
『来世とやらが有るのなら
願わくば人と成り、
 娘と二度び出会いたい』と。
それから幾年時は過ぎ
儀式はおろか、村の伝えも消え果てて
洞には永い年月により静寂のみが付いていた。

鬼と娘が再び出会えたかは今や誰も知る者はなく、

洞の前の森の中

紅の実が唯、人を待つ。






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13.暗くて何も見えないよ

何も見えない。

何も感じられない。


なんだ、これ。


今までに

感じたことのない気分。




――【沈む個体は闇に融けるか】――





目を開けて、閉じる感覚はあった。
それでも、いくら瞬きをしても、暗い。
体の重さが感じなくて、試しに手を動かしてみた。
感覚はある。
仰向けに寝ているはずなのに背中に地面がついている気がしない。

視界は真っ黒。何も見えなかった。
ふわふわと静かに水の中を漂うようだ。
ただひとり

暗い深い


水の中。


誰にも咎められない
誰にも嗤われない
ここは自分だけが存在すると思える世界だった。
ここは自分すらも存在しないような暗闇だった。

目を閉じている感覚はないけど
目を開いている感覚もない。

けれど

とても痛い。


とても辛い。



ひとりでいることの恐怖。


ただただ怖くて
ただただ不安で
泣きたくなった。
泣きたかった。
けれど涙が伝う感覚もなくて。



だから必死になって声を出した。
やっぱり自分の声すら聞こえなかったけど
気がついたら必死に
そこに居て欲しい一人の名前を
ただ、叫んだんだ。








そこに、小さな光の一粒が見えた。
その粒は次第に光を増して、
それはひとつの光の塊になった。
眩しくて目を逸らした。
光が近付いて来て、
それは


光の



手――?


『     』



あぁ
声だ。



唾を飲み込んで
俺自身から、また声を出してみた。


「真っ暗なんだ」
それでもすぐに喉が枯れる。
「暗くて何も見えないよ」
目が熱くなって、じわじわ痛い。


『       』


聞き慣れた、懐かしくて、落ち着いた声。
おれの名前を


呼んでる――?



光の手が、おれの頬に触れた。



その光の先はおれが望む世界なのかはわからないけど
その手はとても温かくて、
きっと大丈夫、と
また笑える気がした。







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14.くそっ……あのオカマ野郎!!

※注意※
この小説は、軽い同性愛表現が描かれています。
苦手な方はご注意ください。



と言っても本当にぬる~いです。
BL小説、なんて気合いの入ったものでないです。
そして長いので、それでも読んでくださる方はどうぞ。







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