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鈴の音、深淵の闇に響く_〈1〉

***

その日、清鈴 灯(きよすず あかし)は人を待っていた。この日の相手は男の予定だった。
雨は降っているが、霧のように体にまとわり付いてくる細かいもので、こういう時は傘を差すべきか不要かを最も迷う。灯はこの日の雨が嫌いだった。
「“待ち合わせですか”」
声をかけられた。落ち着いた柔らかい男の声だ。振り向くと、黒い傘を差した者がこちらを向いて立って居る。灯は応えた。
「“はい、あなたは誰かお待ちですか”」
「“いいえ、桜の下で人を待たせて居ます”」
確認のやり取りは予め伝えてあった。それが終わると、灯は漸く男の顔を見た。顔を見た、というよりただ視界に入れる、という方に近かった。灯はこの待ち合わせで、相手の顔を覚えるようなことはしない。しないように意識していたのかもしれない。
だが、灯はこの日の相手の顔をはっきりと記憶することになる。口の位置、鼻の高さ、目の大きさ、眉の形もはっきりと思い出せる程に。
「“サキ”君?」
“サキ”とは灯のハンドルネームだ。灯は頷き、相手の名を呼ぶ。
「“ヒロ”さんですね」
恐らく相手も本名でないだろう、ハンドルネームに男は頷いた。
年齢は灯より少し上、20代半ばだろうか。細身で、女性が好みそうなキレイに整った顔立ち。黒い髪は肩まで伸びていたが、切りそろえられていて寧ろ清潔感があった。しかし、何よりも灯がこの男に対して違和感を持ったのは、こんな所で男を“買う”なんて行為が無縁のように感じられた。
今まで優男風の男は何人か相手をしてきたが、そういうタイプは時間を延ばすと自ら勝手に罪悪感を増した挙げ句、金を払うような行為の前に終わるパターンがある。ならば早く済ましてしまおう。灯はすぐに言った。
「じゃあさ、早速なんだけど、何処で“する”?」
「近くにアパートがあります。そこへ行きましょう」
自然に丁寧な言葉を使う男を見て、灯はますます今の行為が彼に不似合いだと感じた。








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『破壊される想世界の中で、ぼくはきみと同じ痛みを共有する』



この世界はあとどれくらいもつのだろう。そんなことを考えながら、もう何人もの屍を見て、あぁ、ぼくもいつかこうなるんだろうなと無意識に感じながら、この世界を歩き続けていた。

ぼくがきみを見つけ再び出会った時、どんなに時間が過ぎて姿や形や声が変わっていても、気が付くものなんだな、と自分でも少し感動して驚いた。
きみはぼろぼろになりながら、それでもこの世界で生きようとしていた。
強くて、脆くて、少し変で、だけど自分のやることを信じていたきみは、まだこの世界に生きていた。
「久しぶり」と声をかけたのはぼくで、きみは何も言わずぼくの方を向く。
「誰」
きみがたった2つの「だ」と「れ」の発音を続けて言っただけで、ぼくはひどく悲しくなった。
きみは随分変わってしまったんだ。ぼくも随分変わったけど、きみを覚えていることだけは変わらなかったのに。

「きみがぼくを忘れてしまっても、ぼくはきみのそばにいたい」
きみのそばにいさせてくれないか。

この世界が消える時、きっときみが最後のひとだろう。
この世界を最初に歩いたきみと共に歩いたぼくだから、
せめてぼくの最期には、きみと共にいさせておくれ。

それが今の所、ぼくのいちばんの願いだった。









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『虹色飴屋』を知ってるかい?

赤、橙、黄、緑、藍、青、紫、桃、白、黒
あらゆる色の、あらゆる味の飴玉を、取り扱ってる飴玉屋。
5年前に建てられた、小さな小さなそのお店。
幼い店主がお客さんを待っていた。
小さいながらににぎやかで、それなりに繁盛していたらしい。

いつの間にか月日は流れて
そのお店はもうなくなってしまった。
突然店主が消えてしまった。
そしてお店も潰された。
その住所はもうどこにもない。

ある日、猫は呟いた。
虹色飴屋を知ってるかい?」
金と銀の眼を持つ子猫。
その透き通る猫ノ眼に、かつての飴屋を視るだろう。
店主はどこへいったんだろう、と尋ねれば
実は何処にもいっていない、と言われるだろう。

住所は消えてなくなって、どこにもありはしないけど
住所は変わって、深い森の、広い海の、高い空の、どこかにある。

「かつて僕が視た、あの飴屋はどこにある?」
「今はどこにもないけど、店主はきっとそばにいる」

猫は笑って姿を消した。
彼に会うには、また眼を頼りに進めばいい。
硝子球のような、ふたつの瞳。
今はきっと、寝息を立てている。
浅はかな、存在しない宇宙を夢見て、眠ってる。
小さな泡をはきながら。





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洋菓子店へ行く道

大学の友人へ贈るプレゼントを買いに、地元で有名な洋菓子店へ行った。
そこは小さい頃から知っているお店で、誕生日ケーキは生まれた時から小学校卒業するまでずっとそのお店のケーキだった。中でも動物クッキーはパンダの顔をした店長手作りのクッキーで、すごく思い出に残っている。
そのクッキーもあればまた食べたくて、自転車に乗って行ってきたんだけど、
行く途中に、生まれてから小学生の時まで住んでた団地を通るんだが
そこの半分が取り壊されてて、工事現場になっていた。
そういえばそんなのをやってるな、と聞いたことはあったけどしっかり自分の目で見てはいなかった。所々から覗くコンクリート色の平地に、幼い頃遊んだ公園の面影は全くなかった。
寂しいなと思いながら、残る団地を見ると、唯一と言える洗濯物を干した3階のベランダから、老人が植木鉢の植物に水をやっていた。
そんなものを見上げつつ自転車をこいでいたら、ガードレールにぶつかり、前を走るピンク色のおばちゃんはチラチラこっちを見ながら去っていった。
洋菓子店は今と変わらない造りだったけど、5歩で端から端へ歩けてしまう程で「こんなに狭かったっけ」と驚いてしまった。
幼い頃食べたケーキは変わらずに並べられてて、どんな味だったか今も思い出せる。
動物クッキーの置いてある棚は変わってなくて、商品もあったけど、
クッキーは別の形に変わっていた。パンダではなくなっていたし、人形のように体がついていた。
手に取ってみたけど、買う気にはなれなかった。

帰り道、昔育った残っている方の団地を通って帰ることにした。
商店街はあんなに人がいたのに、今は半分がシャッターを下ろしている。幼稚園児の頃世話になった駄菓子屋には誰もいなかったし、魚の叩き売りをしていたおじさんは小学生の頃から来なくなったのを思い出した。
唯一の遊び場に子供は走っていなかった。日陰で座る老人と集会所に止められた自転車だけが懐かしかった。
右へ行くと私が住んでいた団地がある。洗濯物がなびいていたので、人が住んでいるんだと嬉しいやら悲しいやら。
あのゴミ置き場は危ないから入るなと注意された所で、幼稚園の友達としょっちゅう中へ入って遊んでは宝物というゴミを集めて置いていた。
後ろから自転車に乗った小学生が私を追い越しながら「俺たちの秘密基地にしようぜ」と駆けていく。向かう先に見覚えがあり、後を追う様について行く。そこは過去、私が秘密基地と呼んでいた団地の裏の草が生い茂った場所だった。
大きなリュックサックを背負った2人の少年達は秘密基地の中へ走っていった。あの場所は今も秘密基地だったのだ。

帰り道へ戻ると、桜と銀杏の木に挟まれた通り道がある。そこを私は勝手に「季節のトンネル」と呼んでいた。夏の今は緑が生い茂って、まさに木洩れ日を差していた。幼い頃の姉が怪我をした箱ブランコは、怪我をする子供が後を絶たないので小学校の頃に撤去された。別の青いブランコがある場所はカラフルな赤と黄色に塗り替えられていた。奥の広場の塀はこんなに低かったのかと感じ、ボールを当てていた絵は落書きかもしれないと思った。
先へ進めばいつも眺めている道路へ出る。信号を渡った際に、またあの秘密基地が思い出される。
悔しいが秘密基地は譲ってやろう。あそこは変なおっさんが怒ってくるから気をつけろよ、と、遠くの少年達へ言葉を贈る。
あそこはこれからも子供達の秘密基地なのだ。






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教訓的なメモ、その1

全て自作のオリジナル文です。
深い意味はありませんが、いつか創作小説に使いたい。
下の数字は書いた年月日。


*********


◆かこのじぶんにころされる
100619

◆性行為=支配
100625

◆逃げるんじゃない。違う方向へ走るだけだ
100607

◆早起きは三文の得、遅起きは五文の損
100510

◆怒りはエネルギー、落ち込みは休養
100416

◆どんな技術を使っても
私に空はわからない。
100219

◆盲目的正義の女神
貴方は力を欲した為に
剣を両手に持ち替えた。
091221

◆盲目の女神は一人の男を愛する故に剣を両手に持ち替えた。
091219

◆「知ってるか?ヒーローは空を飛ぶんだ」
「知ってたか?ヒーローってのは、遅れて来るもんだ」
091103


◆名前を呼ぶという事は、存在の意義を表す。
091016

◆彼岸の花にさよならを。
090917

◆いつか見た夢に想いを馳せて、
090915

◆女の涙は男の未来を奪う。
090809

◆美しさと恐ろしさは一体である。
090218

◆脳と片目と右手があれば活きて行ける。
090122

◆未来を考えると絶望する。過去を思い出すと死にたくなる。
090122

◆友だちは頑張らないと作れないものだとは思わなかった。
081213

◆言葉に責任が持てないから話すことをやめた。
0812xx

◆携帯電話という刃物
0812xx

◆どうせ巧くものが見えない世界だ、今更目を閉じても変わりはないだろう。
0812xx


◆知らない事が良い事だとは思わない。
けれど、それは時として救いとなる。






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