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F S 8 * 異国の本

コルトは不思議と一冊の本を手にとっていた。
表紙の色はくすんだ黒に、すこし土色が混ざっている。
というか、自然に土色に染まってしまったのだろう。
年期の入ったものだとわかった。
「気になるかい」
ふと顔をあげた。そこに声の主はいた。
本が出ているのだから、店主がいないわけはないのだが
場所が影だっだからだろう。ヒトの気配を全く感じなかったのだ。
店主は―もとからそういう顔をしているのだろうか―常に口の両端が上がっていた。
よく見ると着ている服装の色は奇抜で、原色の青を基調としてよく目立つ。
少なくともこの国の者ではないとわかった。
「その本が気になるかい」
男にしては少し高い声で、店主はもう一度コルトの持つ本を指差して言った。
「ええ、気になる本ですね」
コルトは決して世辞を加えて言った訳ではなかった。
気になるのはこの本だけではない。そこに並べられている本の全てが異彩を放っていた。
表紙を開こうとすると、店主が言った。
「読めるかい」
そういえば、と手を止めて書かれている文字を見た。
コルトには見たことも無い、曲がったり交差したりする線が書かれていた。
「残念」
声を出したのは店主の方だった。コルトの表情を見て言ったのだろう。
笑うような目元がさらに上がった気がした。
蛇みたいだ、とコルトは思った。
「コルトー!」
大通りから向かってくるシィナの声に振り向いた。
日向から日陰へ入ったせいか、瞬きを多くしている。
「本買うのか?」と彼はコルトの手に持っている本を見たが
すぐに屈んで、並べられている別の本を手に持った。
その本は、やはり言葉として認識できない線で書かれている本だった。
「見てみろよコルト!海が描いてある!」
はしゃいでいる彼の後ろからその本の表紙をみると、
確かにその本の表紙には絵が描かれていた。
青色をした平地の絵。
コルトは海を見たことが無かったので、その絵が海だと認識するまで時間がかかった。
シィナと出会って、初めてその存在を知った程だったが
なんだか自分の想像していたものと少し違っていた。
「でもシィナ、海は水でできているんだよね」
「そうだよ。だから水色なんじゃないか」
「だったら、水の上にヒトは立てないはずじゃない?」
シィナから聞いた“海”は、大きな水溜りだという。
しかし、シィナが“海”だという絵には、ぽつんと小さくヒトが立っていたのだ。
「それは海じゃないよ」
店主が言った。
「それは青色の砂漠だ」
「青色の砂漠?」
「そう」
砂漠は砂の集りだ。それならヒトが立てる。納得がいった。
「でも青い砂漠なんて、オレ見たことない」
とシィナは言う。
「見ていない世界なんて沢山あるさ」
店主は平然と答えた。まるで別の世界があるかのように――・・・





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FS7*賑わいの町・エト

森で一晩明かした二人は、そのまま子兎を飼主の下へと返す為に町へもどってきた。
野生獣の多い森が近くにある為、町を覆うように石の塀が建たされていた。
外からみれば冷たい石塀も、中に入ると、途端に色を変える。
町は常に賑わいを見せているからだ。



「ありがとうございますー!!」
目の前に居る婦人は大きな身体を揺らして、先ほどから礼の言葉を口にし続けている。
手には小さな子兎がきゅうくつそうに丸くなっていた。
「でも、本当によく見つけれられましたわねぇ。こんな可愛いオトコノコたちに
 見つけてもらちゃって、ちゃむちゃまも大喜びのことですわぁ」
ごてごての宝石で飾られた婦人の、丸くて短い指はふかふかと子兎をなでた。
もしその子兎が火だったら、きっとその指から良い匂いがしてくるだろうな、
とコルトはぼんやり考えていた。
横でシィナはにこにこと笑っている。彼の手には中身のつまった小袋。
2人はたった今、お尋ね者の子兎「ちゃむ」を主人の元へと帰した。
紙に描かれていた以上に、丸く太っていた婦人は、満足そうに子兎を籠の中にいれて帰っていった。
姿が見えなくなった頃になって、シィナがふと小声で言った。
「写真でみた以上に、ドギツかったな…」
口の端が少し上につりあがっていた。
「とりあえずなんか食べようぜ。
 やっと充分にご飯が食べられそうなお金ももらったことだし、な」
コルトも腹が空いたと自覚し始めた時だったので丁度良かった。
「そうだね。さっきの女の人見てたら、肉が食べたくなってきちゃったよ」
「あはは!そうだなー」
シィナは振り返り、広い大通りを見渡した。
賑わう町・エトは、様々な人種や職人が集まる場所だ。
特に大通りは出店が多く、珍しい異国の物が売られている。
いつ来ても目新しい物が並んでおり、つい目を取られてしまう。
ふと、コルトは小さな出店に目がいった。
出店といってもシートの上に本を数冊並べて、ひとり男性が座っているだけのもので
しかも店を出している場所が細い裏路地に面している日陰。
陽から避けた暗がりの中なのだが――
どうしても、気になる。
吸い寄せられるようにコルトはその店の前へ歩いていた。
「あ、コルト」シィナが気づいた時にはすでに店の前に立って、商品らしき本を眺めていた。






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FANTASY STORY 6

「コルト!」
突然呼ばれた名前に目が覚めたような気がした。
振り向くと、ひどく息づかいが荒くなったシィナが
腰を曲げて呼吸を整えているところだった。
彼の綺麗な水色の髪が、コルトには少し眩しく見えた。
恐らく、名前を呼べたことが精一杯だったのだろう。語尾がかすれて聴こえたからだ。
彼の肩はゆっくりと大きく上下にゆれている。
それと比べて、先程よりもゆっくりと呼吸をしている子兎。
もう恐怖はなくなったのだろうか。
「コルト、ひとりで、先、行っちゃ、うんだ、もん……。
 おォ、おいて、行かれ、ないよう、に、がん、ばったよ……」
「あ……ごめん、シィナ」
でも、と、コルトは言葉を続けた。
「ほら、頼まれてた子兎ってこのコのことだろう?」
丸くなった兎は両手にすっぽりと収まるほど小さかった。
シィナが顔を上げると半開きの目に光がさすほど見開き、
同時に歓声をあげる。
「すっげぇ!こいつだこいつ!うん、首輪もちゃんとついてるし!」
子兎の首には、毛が長くて気付かなかったが、細く赤い首輪がつけられていた。
背中側には小さな宝石と、その横に『ちゃむ』と書かれているプレートがつけられている。
「ちゃむ、って名前なんだ」
「うん、確かに賞金かけられてんのはそいつだな」
シィナは腰にかけている小さなバックパックから四つ折りにした紙を取り出しながら、言った。
依頼人が配布している広告だ。
コルトたちが探していたもの――それは迷子の子兎だった。
この森の近くにある街のギルドで見つけたのだ。
ギルドに行くあたり、もちろん2人は金欠。
そんなときに丁度入っていたのがこの依頼だった。

 【迷子の子兎】
―3日前から我が家の可愛い『ちゃむ』ちゃんが居なくなってしまいました。
 何者かに盗まれたのではないかと心配です。
 目印は白くて可愛いお顔、細くて繊細なおひげ、
 そして小さなクリスタルのついた赤い首輪とネームプレートの『ちゃむ』――
その下には親ばかとしか思えない程の爆発的高価格。
そして子兎の写真と飼主の写真(ふくよかでいかにも富豪そうな婦人)、
そして連絡手段が書かれていた。

もちろん、こんな一攫千金のチャンスは他のハンターたちも黙ってはいない。
子兎一匹などすぐに見つかるだろう。
そう考えた街の人間達は、街中兎探しでいっぱいだった。

しかし、コルトとシィナがこの街へ来た時には、依頼が出されて3日経っていた。
街中が兎ハンターだらけなのに、見つかってはいないということは…
2人は、凶暴な野生獣は生息している森を探してみることにしたのだ。
そして丸一日探した結果、今に至る。

シィナの手掌の中で、ふかふかとなでられてうっとりしている子兎。
その小さな生き物を見ているだけで、今までの騒動が嘘のように感じられた。
「とりあえず、もう遅いから今日はここで野宿でいい?シィナ」
「うん。ちゃむはカゴの中に入れといたし。じゃあ薪でも集めてくるか」
そうして、二人と一匹は、静かになった森で夜が明けるのを待った。





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FANTASY STORY 5

「頼むから、ここは退いてくれないか」
先程よりも低く、唸る様に声を出す。

この時、野生獣なりに何かを感じとったのかもしれない。
フーッと一瞬強く威嚇したかと思うと彼は背をむけて森の闇の中へと走り去った。
姿が見えなくなったのを確認して、コルトは込めていた力を一気に抜いた。
先ほどまで硬くなっていた尻尾もふわりと脚に当たる。
「…おいで、もうでてきても平気だよ」
コルトが向けた目線の先―闇で深緑に染まった雑草の間から
姿を見せたのは、白い毛並の子兎だった。
まだ先ほどの野生獣に襲われたことが後を引いているのか
小刻みに体を震わせていた。
目線を合わせるように屈み、右手をそっと指しのべる。
「大丈夫。私は君を食べたりはしないよ」
子兎の赤い目はじっとコルトの目を見つめている。
しばらくして、ひょん、と小さい体が前へ動き、コルトの手元までやってきていた。
ひくひくと動く小さな鼻が可愛らしい。
コルトはゆっくりと左手を差し出し、両手で包むように子兎を胸の前に抱き上げた。
ころころと丸く、あと少しでも力を加えれば崩れてしまうような柔らかさだった。
震えは収まっていたものの、小さな心拍を肌で感じることが出来た。
動物といえど感情はあるはずだ。きっと底知れぬ恐怖だったに違いない。
死の可能性を感じる恐怖。
それほど残酷で纏わり付くものはない。
コルトの胸の中である記憶がざわめきだした。
「……もう、大丈夫だから」
不意に口にした言葉は子兎に向けられたものなのか、
あるいは自らに向けられたものなのか。
コルト自身もわからなかった。
子兎の鼓動は温かかった。





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FANTASY STORY ****

シィナが腰に巻いているバックパックから携帯食を取り出し食べているのに対し
コルトは未だ、座ろうともしない。
「コルトー、飯ぐらい食べとけよー」
声をかけるが、コルトは尻尾すら反応させない。
先ほどから一点を見つめ続けている。
「なぁ、コル……」
「居た」
え、とシィナが振り向いたとき、すでにコルトは風の音をたてて自分の視線の先へと走っていた。
亜人であるコルトは、体こそ人間だが、走ることは動物並に素早い。
それが亜人の特徴でもある。
跳ぶように木々や茂みを掻き分け一点へ向かう。
風に紛れて微かに聞こえてくる音―まるで森の木々の激しい鼾<いびき>のような
飢えた音が徐々に近くなってゆく。
太い幹を高く蹴り、枝へ登った時、コルトはその鼾を出す生き物を確認した。
「やっぱりだ」
視線の先には暗闇の中に青白く光る金色の毛並―狼のような姿をしているが
それよりもいくらも凶暴な野生獣がいた。
毛は逆立ち尻尾は膨らんでいる。それは明らかに興奮していることが分かった。
コルトは大きく木を揺らして高く跳び降り、野生獣目掛け左足を大きく振り落とした。
地面を踏む感覚と共に野生獣の甲高い鳴き声が響いた。コルトの蹴りの勢いに耐え切れなかった
のか、奥にある木へと背中からぶつかっていた。しかしすぐに体制を正し、さらに興奮したような眼は
コルトを捕らえ、鋭い牙の間からは腹の底から響くように吠えた。
並みの人間ならば、その声だけで立ち上がれなくなるだろう。
しかしコルトは、まるで友人をなだめるように落ち着いた声で、言った。
「いきなり蹴ったりごめんよ。でも、アレがないと私達が困るんだ」
言葉が通じているかどうかは分からなかった。
しかし野生獣も唸り声を上げてはいるものの、動きはみせない。
更に念を押すように、コルトの濃い茶の色をした眼は鋭く獣を睨み返した。





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