[sor ato e ru]
青空の羽を秘める少年と、堕ちた神の使いに似て非なる者の話
彼はいつかの僕だった
そう思うのは、もう僕だけで充分だ。
彼の叫びを聞いたのは暗い深い闇の底
憐れだと思うかい、
可哀相だと嘆くかい、
愚かだったと、蔑むかい。
もっと早く、出会うべき人と出会っていれば、
あと少し、暗い世界に耐えていれば、
救われたかもわからない。
ただわかることは、結果は善悪でいうなら『悪』だという事実。
小さな嘆きから生まれた悲しみは憎しみへ。
憎しみが生んだ恐怖は哀しみへ。
哀しみが生む嘆きはまた憎しみへ。
いつかどこかだれだろうが、小さな嘆きを包む手を持っているのだ。
早く出会うべき人になってくれ。
こうなってゆくのは、もう僕だけで充分だ。
彼の叫びを聞いたのは暗い深い闇の底
憐れだと思うかい、
可哀相だと嘆くかい、
愚かだったと、蔑むかい。
もっと早く、出会うべき人と出会っていれば、
あと少し、暗い世界に耐えていれば、
救われたかもわからない。
ただわかることは、結果は善悪でいうなら『悪』だという事実。
小さな嘆きから生まれた悲しみは憎しみへ。
憎しみが生んだ恐怖は哀しみへ。
哀しみが生む嘆きはまた憎しみへ。
いつかどこかだれだろうが、小さな嘆きを包む手を持っているのだ。
早く出会うべき人になってくれ。
こうなってゆくのは、もう僕だけで充分だ。
とらうま
今日バイト先に古い知り合いがきた。
小学校の時にこっちに転校して来て、しばらく中が良かった友人と呼んだ人。
ある日から何が原因かわからなくて一方的に喋ってくれなくなった。今でも原因はわからないけど今の私があの頃の私を見ると、私の方が悪かったんだろうと思う。
相手は気付いていたかわからない。あの頃の私しか知らないひとは今の私を見ても気付かないと思うだろうし。
彼女は、ある意味で私を変えたもののひとつだ。
あの頃、私は幼いながら初めて絶望という言葉の存在に気付いたのだ。
彼女に声をかけることができなかった。
今更馴染みの友人の様に振る舞うのも、カタキの様に対応するのも、当てはまらなかった。
彼女は私を気付かせてくれた切っ掛けのひとりだ。
だけど感謝するというのも違う気がする。
彼女を見て、すぐに彼女だとわかった。声を聞いて確信した。彼女は彼女のままだった。
こころの位置があやふやになった時間だった。
小学校の時にこっちに転校して来て、しばらく中が良かった友人と呼んだ人。
ある日から何が原因かわからなくて一方的に喋ってくれなくなった。今でも原因はわからないけど今の私があの頃の私を見ると、私の方が悪かったんだろうと思う。
相手は気付いていたかわからない。あの頃の私しか知らないひとは今の私を見ても気付かないと思うだろうし。
彼女は、ある意味で私を変えたもののひとつだ。
あの頃、私は幼いながら初めて絶望という言葉の存在に気付いたのだ。
彼女に声をかけることができなかった。
今更馴染みの友人の様に振る舞うのも、カタキの様に対応するのも、当てはまらなかった。
彼女は私を気付かせてくれた切っ掛けのひとりだ。
だけど感謝するというのも違う気がする。
彼女を見て、すぐに彼女だとわかった。声を聞いて確信した。彼女は彼女のままだった。
こころの位置があやふやになった時間だった。
【君に捧ぐ、】
「い、ゼロ、う?」
「アイ、ラブ、ユー、だよ」
気分を変えたくなって、メールアドレスを変えた。
迷惑メールが送られてくるのも厄介なので、英数字をごた混ぜにしてちょっと工夫。
その中の一部に『i0u』の3文字を用いてみた所、彼は興味をもってくれたみたいだ。
「なんでゼロがラブなわけ?」
「テニスとかの得点を言う時にラブって言うじゃん?だから」
と説明すると、あぁ、とも、ほぉ、ともとれる多分納得したであろう相槌を打たれ、すぐに
「愛の言葉も書きようによっちゃ安っぽい暗号になるんだな」
と返された。
これでもちょっとは悩んで考えたんだけどな…。
「こんな簡単に愛の言葉は使うもんじゃない。英語の場合は特にだ」
「英語の場合は?」
そう、君は短く頷いて
「その文を日本語に訳した時、昔はなんて言われてたか知ってるか?」
と得意気に問い掛けてきた。
こうやって、頭の良い彼が雑学を披露するのは二人の間でよくあること。
普段は初めて聞くような知らない事を教えてくれる君だけど、今回は違うんだなぁ。
「あ、それなんか聞いた事あるよ!えーと」
前にどこかで知った記憶を頭の中の奥から掘り返す。
そう、確か…
「『君の為なら死ねる』だっけ」
「『貴方の為なら死んでも良い』だな」
「どっちでも一緒でしょー」
「全然違ぇよ」
相手を想う気持ちが強いという意味ではほぼ変わらないと思うんだけど、彼にとっては違うらしい。
相変わらず細かいなぁ。
「でも英語ではあんま口に出して使わないよね。よっぽど気分が乗ってないと」
「俺だったらさり気なく言うね」
「日本人に?」
「うん」
「嘘だァ」
いくら君がかっこよくても、それはきっと難しいんじゃないかな。
軽く笑ったら、君が少し不機嫌になったのが表情にちらりと見えたので、ちょっと用心する。
「だって、さっき言ってたじゃない。そんな簡単に使うんじゃないって」
「それは、本気で自分の心臓を捧げられる奴が出来た時にしか使うに相応しないってことだよ」
そう言って彼はすぐにこちらへ背中を向けて、読み途中だった雑誌を自分のバッグにしまい始めた。
彼の言葉の意味を理解した時、過去に君が命を捧げたひとにちょっとだけ嫉妬をした。
それは何人くらいいたの?
なんて聞く事はできなくて。
「おーい、そろそろ行くぞ」
「え…、あ、待ってよぅ!」
気がついたらもう出て行く時間になっていて、君は仕度をさっさと済ませてドアの前に立っていた。
君がドアノブに手をかけた時、あ、と声をだして
「そうだ、お前に言いたいことがあるんだ」
とこちらに振り向き、
「I love you」
と耳元で囁かれた。
突然のことに反応ができなくて、ただ自分の顔が急激に熱くなるのがわかった。
気がついたら彼は既に外を歩いていて、慌てて後を追いかけた。
うん、確かにさり気ない。
しかもそれがとても君に合っていて
かっこよすぎでしょ…。
悔しいから、先に進んでいた彼の背中に飛びかかって
言ってやったんだ。
「それはこっちの台詞だよ!」
「アイ、ラブ、ユー、だよ」
気分を変えたくなって、メールアドレスを変えた。
迷惑メールが送られてくるのも厄介なので、英数字をごた混ぜにしてちょっと工夫。
その中の一部に『i0u』の3文字を用いてみた所、彼は興味をもってくれたみたいだ。
「なんでゼロがラブなわけ?」
「テニスとかの得点を言う時にラブって言うじゃん?だから」
と説明すると、あぁ、とも、ほぉ、ともとれる多分納得したであろう相槌を打たれ、すぐに
「愛の言葉も書きようによっちゃ安っぽい暗号になるんだな」
と返された。
これでもちょっとは悩んで考えたんだけどな…。
「こんな簡単に愛の言葉は使うもんじゃない。英語の場合は特にだ」
「英語の場合は?」
そう、君は短く頷いて
「その文を日本語に訳した時、昔はなんて言われてたか知ってるか?」
と得意気に問い掛けてきた。
こうやって、頭の良い彼が雑学を披露するのは二人の間でよくあること。
普段は初めて聞くような知らない事を教えてくれる君だけど、今回は違うんだなぁ。
「あ、それなんか聞いた事あるよ!えーと」
前にどこかで知った記憶を頭の中の奥から掘り返す。
そう、確か…
「『君の為なら死ねる』だっけ」
「『貴方の為なら死んでも良い』だな」
「どっちでも一緒でしょー」
「全然違ぇよ」
相手を想う気持ちが強いという意味ではほぼ変わらないと思うんだけど、彼にとっては違うらしい。
相変わらず細かいなぁ。
「でも英語ではあんま口に出して使わないよね。よっぽど気分が乗ってないと」
「俺だったらさり気なく言うね」
「日本人に?」
「うん」
「嘘だァ」
いくら君がかっこよくても、それはきっと難しいんじゃないかな。
軽く笑ったら、君が少し不機嫌になったのが表情にちらりと見えたので、ちょっと用心する。
「だって、さっき言ってたじゃない。そんな簡単に使うんじゃないって」
「それは、本気で自分の心臓を捧げられる奴が出来た時にしか使うに相応しないってことだよ」
そう言って彼はすぐにこちらへ背中を向けて、読み途中だった雑誌を自分のバッグにしまい始めた。
彼の言葉の意味を理解した時、過去に君が命を捧げたひとにちょっとだけ嫉妬をした。
それは何人くらいいたの?
なんて聞く事はできなくて。
「おーい、そろそろ行くぞ」
「え…、あ、待ってよぅ!」
気がついたらもう出て行く時間になっていて、君は仕度をさっさと済ませてドアの前に立っていた。
君がドアノブに手をかけた時、あ、と声をだして
「そうだ、お前に言いたいことがあるんだ」
とこちらに振り向き、
「I love you」
と耳元で囁かれた。
突然のことに反応ができなくて、ただ自分の顔が急激に熱くなるのがわかった。
気がついたら彼は既に外を歩いていて、慌てて後を追いかけた。
うん、確かにさり気ない。
しかもそれがとても君に合っていて
かっこよすぎでしょ…。
悔しいから、先に進んでいた彼の背中に飛びかかって
言ってやったんだ。
「それはこっちの台詞だよ!」
【be warmhearted】
「ねぇ」
背中に温もりを感じた。
猫のような声で僕の名前を呼ぶから、すぐに君だとわかる。
「何?」
目を合わせて話さないと拗ねるだろうから、読んでいた本から目をを離した。
「ひま。」
後ろから僕の肩に顎を乗せて君は呟いた。
「遊んでー。」
気がつけば僕の腰には君の腕が周っている。我が儘に甘えてくる君を、僕はつい甘やかしてしまう。
「じゃあ、何する?」
「んーと…」
「なんかおもろいことやって!」
「…無茶振り。」
残念だけど期待に応えられる自信はない、という顔をしたら
「なんでもええよ。」と、余計に困る言葉を返された。
「なんでもええから、何か話そうや、そないな意味分からん本ばっか読まんで!」
そう言って僕の手からハードカバーの本を奪った。仕事で使う専門書を、君は眉間に皺を寄せて読み、閉じた。
「むずい~。」
「そらな。」
いじけた君はまるで子供みたいで、少しおかしかった。僕が本を返して貰ったら、また考えて、
「じゃあ、こうしよ。」
と、勢いよく飛び掛かって来て、僕を座椅子代わりにしてちょこんと座った。傍に近付いたからか、さっきまで君が飲んでいたコーヒーの香りを感じた。
「でも……おもいし、動きづらいなぁ…。」
「もー、じゃあどないしたらえぇの!」
「素直に座っとったらええやんッ」
勢いで思わず乱暴に言うと、目を見開いて君は黙ってしまった。
まずいと思った時には手遅れで、見ると君は俯き、そしてぽつりと呟いた。
「折角…一緒にいられるやん。」
俯いた顔では表情がみえない。それでも声は、微かに震えていた。
「久しぶりに傍にいられるんやから、もっと構ってほしいんよ…。」
淋しげな君の言葉に、心臓が疼いた。
最近は、僕の仕事が忙しくて会えない事が多くなっていた。こうして二人で居られる事も今年に入って数える程しかないくらいで。
こうやって温もりが感じられる時間は、僕達にとって大切なものだった。
考えていくうちに、とても申し訳がなくなって、反省をして君の顔を見た。
「ごめん…な。」
すると、さっきまでの雰囲気とはまるで違う、目に星があるような瞳で僕を見た。
「じゃあ今日はずっとこうしててええ?」
ぴったりと横に付かれて右手をぎゅっと握られた。
困る僕を見ながらにこにこと微笑む君。そして僕は溜め息をひとつ。
「ええよ。」
やっぱり少し動き辛いけど、君が笑顔でいてくれるならと、小さな君の手を優しく握り返した。
『今日』が過ぎてしまえば、また『仕事』が僕達の距離を作るだろう。
それでも君は僕の近くへ来てくれる。
手を繋いでいてくれる。
だからその手を離さないように、
僕もしっかりと繋いでいてあげるよ。
君の温かさを、僕の全てで感じながら。
背中に温もりを感じた。
猫のような声で僕の名前を呼ぶから、すぐに君だとわかる。
「何?」
目を合わせて話さないと拗ねるだろうから、読んでいた本から目をを離した。
「ひま。」
後ろから僕の肩に顎を乗せて君は呟いた。
「遊んでー。」
気がつけば僕の腰には君の腕が周っている。我が儘に甘えてくる君を、僕はつい甘やかしてしまう。
「じゃあ、何する?」
「んーと…」
「なんかおもろいことやって!」
「…無茶振り。」
残念だけど期待に応えられる自信はない、という顔をしたら
「なんでもええよ。」と、余計に困る言葉を返された。
「なんでもええから、何か話そうや、そないな意味分からん本ばっか読まんで!」
そう言って僕の手からハードカバーの本を奪った。仕事で使う専門書を、君は眉間に皺を寄せて読み、閉じた。
「むずい~。」
「そらな。」
いじけた君はまるで子供みたいで、少しおかしかった。僕が本を返して貰ったら、また考えて、
「じゃあ、こうしよ。」
と、勢いよく飛び掛かって来て、僕を座椅子代わりにしてちょこんと座った。傍に近付いたからか、さっきまで君が飲んでいたコーヒーの香りを感じた。
「でも……おもいし、動きづらいなぁ…。」
「もー、じゃあどないしたらえぇの!」
「素直に座っとったらええやんッ」
勢いで思わず乱暴に言うと、目を見開いて君は黙ってしまった。
まずいと思った時には手遅れで、見ると君は俯き、そしてぽつりと呟いた。
「折角…一緒にいられるやん。」
俯いた顔では表情がみえない。それでも声は、微かに震えていた。
「久しぶりに傍にいられるんやから、もっと構ってほしいんよ…。」
淋しげな君の言葉に、心臓が疼いた。
最近は、僕の仕事が忙しくて会えない事が多くなっていた。こうして二人で居られる事も今年に入って数える程しかないくらいで。
こうやって温もりが感じられる時間は、僕達にとって大切なものだった。
考えていくうちに、とても申し訳がなくなって、反省をして君の顔を見た。
「ごめん…な。」
すると、さっきまでの雰囲気とはまるで違う、目に星があるような瞳で僕を見た。
「じゃあ今日はずっとこうしててええ?」
ぴったりと横に付かれて右手をぎゅっと握られた。
困る僕を見ながらにこにこと微笑む君。そして僕は溜め息をひとつ。
「ええよ。」
やっぱり少し動き辛いけど、君が笑顔でいてくれるならと、小さな君の手を優しく握り返した。
『今日』が過ぎてしまえば、また『仕事』が僕達の距離を作るだろう。
それでも君は僕の近くへ来てくれる。
手を繋いでいてくれる。
だからその手を離さないように、
僕もしっかりと繋いでいてあげるよ。
君の温かさを、僕の全てで感じながら。
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