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【感想文】24時間、毎日、変わらず

『コンビニ人間』村田紗耶香

ガラスでできたがらんどうの店舗。
24時間活動し続けているコンビニ。
「ここは昔とかわらないねぇ」
その中の秩序と風景。普通である。
普通とは?
長くなったので続きに収納します↓










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芥川賞作品ってなんらかの批判が多い印象なのに、この本だけは否定的な評価を聞かなかったので、とても興味があった。
30代後半でコンビニバイトで恋愛経験なしの女性という主人公の設定をみるだけで、
うんざりするほどよくある「女の悩みとか葛藤の話」を読まされるのかとおもいきや、
全く、全部、覆された。
「女性の悩み」どころか、現代人の悩みすら理解ができない、人間の悩みと葛藤の小説だった。

主人公は、よくいえば、常に第三者的で俯瞰的で鳥瞰的なヒト。
悪く言えば自分を持たない、持てない、感情がほとんどないヒト。という印象。
けれどどうしても私は主人公の方に惹かれて、
主人公の周りの出来事に、彼女の立場になって悲しんだり苛ついたりしてしまった。

序盤、主人公の異常性がわかる小学生の頃のエピソードがあるのだけど、
私はそのシーンに妙に親近感がわいてしまって、だから主人公の方に感情が寄ってしまったというのがあるかもしれない。
喧嘩する男子たちを「誰か止めて!」というので、スコップで殴り倒して止めたというエピソード。
正直私は「その手があったか!」って、なんの疑問も持たなかったし
主人公超頭いい上に行動力合ってすごいなぁとか思ってしまったけど、そういうことではない。


男子に嫌なことをされて「やめてって言ってるのに、やめてくれないの」って怒る女子に
「じゃあ相手にしないで無視してればいいじゃん」って言っても
「え~でもぉ~」と言って怒ることをやめなかった女子がいたなぁ、とか思い出した。

主人公は大人になって、妹のアドバイスを参考に、ようやく世間の人々と同じような姿に擬態できている
と、思っても、読者から見ると、やっていることが所々異常だと思える。
「こうすればみんなと同じにみられる」
「これをしていれば世間にはふつうと思われる」
そうやって取り繕っていても、やっぱりどこか異質であることは、周囲にはばれていたのかもしれない。

長く勤めていれば職場の人は変わってゆく。人が変わると、自分もその周囲の人たちと同じように染まってゆく。
確かに、環境が変われば自分も変わる、ってよくいうよね。

しかしまぁ何より途中で入ってきた白羽っていう男がね、ホンッットムカつくので読んでてストレスが溜まる溜まる。
きっと100人に読ませたら98人がイラっとくる。残りうち1人は白羽と同じタイプの人間。もう一人は主人公。
それくらい万人に共通してムカつく人間だと思う。
そういえば最近ニュースで知ったのだけど、白羽はインセルというものに近いのでは?
参考(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%AB )

その白羽にすら、社会的に見た表面だけを考えて接する主人公は、異常を通り越して恐怖を感じた。


妹が「どうして普通になれないの」と泣いてしまったシーンは、どちらに非があるわけでもなくて、とても悲しかった。
寄り添ってあげたいのはわかるけど、彼女はその普通がわからないんだよ。
どこか、カフカの「変身」を思い出すシーンだった。


逆に、感情に左右されないところは羨ましいと思った。
独身恋愛経験なしの状態で、付き合いでバーベキューに行って、
友人たちやその旦那たちからいろいろ言われて、悲しいともムカつくとも思う描写がなかった。
主人公は自分の感情の起伏が全くと言っていいほどない。
「それは怒ることなんだな」「これは嫌だと思うものなんだな」「これはかわいいというべきものなんだ」
これ、結構、よくある。何かを見て相手と同じ行動・感情を示せば、周りから同じだとみられること。
「これをすると他人と同じように生きているように見てもらえる」行為
別にやらなくてもいいのに、他の人がやっているのだから、私もやっておかないと、って思うムラ社会から疎外されることへの恐怖観念。

今まで平穏だった、普通でいられたと思うコンビニアルバイト生活も、
たったひとつの彼女の行動が知られて、下品で下世話な人間の勝手な妄想と感情によって
崩されてしまうところは悲しくて仕方がなかった。
彼女が「普通」だと思えた世界が壊れてしまった。


でも少しだけ、後味の良いラストで、ちょっとだけ救われたような気がして、よかったな、と思いました。
後味のいい余韻を残した終わり方。
あのコンビニで働けるといいなぁ。
ていうかコンビニって長く続けてたら正社員雇用とかないのかね?難しいか。

良かったけど繰り返し読みたくない…でも数ヶ月経ったらふとページめくり出しそう…そんな気分になった。
幼いころの彼女の行動を、誰かが本当に理解をしてくれて、彼女の考えを否定せずに生かしてあげていたら、彼女はまた別の人生があったのだろうか。
ひたすら悲しい。悲しいけれど後味は悪くないと思える小説でした。






生きていく上で何がしたいのか、目標とか目的とか、これからの自分の動きを指定するものが無いと無職中の彼女と似たような生き方しそうなきがしてならない…。若干トラウマ思い出した。

彼女を異常と思っても、私は彼女を異常だと批判することはできない。
私たちが普通と思っていることが異常に見えてくる。

主人公が圧倒的に完璧にマイノリティな人間なのに、マジョリティへの皮肉になっている。
それがマジョリティへ共感されてヒットしている、ってなんか不思議だなぁと思う。

個人的に「あなたたちの遺伝子を残さないで」と言ってくれる弟嫁はありがたいなぁと思いました。

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