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【熱に浮かされる話】

概要/三士朗と灯


■三士朗視点。



風邪を引いた三士朗と世話焼き灯。



***

目が覚めて、三士朗は自分の身体が妙に重く感じた。
起き上がろうとしても腕に力が入らず、頭の奥がズキズキと痛む。うっすらと肌に寒気を感じながら、かろうじて寝返りをして、時間を確認する為に携帯電話を開いた。
新着メールが一件。大学で日々、必ず顔を合わす男からだった。

――サンシロ、今日学校来てねーの?――

画面に表示されている時計は正午を回っていた。午前の授業を休んでしまったという焦りよりも、一行で終わる疑問文にもカラフルに絵文字を使って騒がしく動いているメールに目が痛くなる。目蓋をこすりながら、極力予測変換に頼ってメールを返した。

――ねてた。午後からいく。――

このまま起きずに寝ていたい気持ちもあったが、授業を受けない訳にもいかず、いつもよりもスローペースに敷き布団から這い上がった。
立つと身体の重みに加え胃の中まで気持ちが悪い。あぁこれは風邪かな、と軽く流しながら身支度を整えた。靴を履き、玄関の鍵を開ける。
ふわり、と風が吹く。
宙に浮く感覚を最後に、意識が暗闇に消えた。








拍手

***


「――シロ、…おい、三士朗!!」

ひたひたと頬を叩かれ、名を呼ばれた事に気が付いた。
ぼやけた視界に映ったものは、よく知った男の顔。

「おぉ、生きてるな三士朗!?」

安否を確認した際の第一声がそれか、と若干呆れたものの、この男の言うことだから仕方なく、また大した意味もない。

「…うん、死んでない」

そんな簡単に死んでたまるかとも思ったが、そこで、ある疑問が浮かぶ。

「つか、なんで、灯、居んの」


身体の熱と重さで、思うように動かない口でなんとか声を絞り出した。
見える天井や周りのものは、間違いなく自宅だ。先程のメールをよこした本人である灯は、大学に居るはずではなかったのだろうか。

「だって三士朗、午後になっても来なかったじゃんか」

気になって家を訪ねたら鍵が開いていた。入ってみれば玄関で倒れている三士朗を発見した、という経緯を灯はすんなりと話した。

「でも、お前、がっこう、」

「そんなんサボってきたっつの。それよりお前、大丈夫かよ」

灯が平然と授業を受けずに来たと言ったことには大して驚かなかった。この男が、自らの意志の尊重の為に自主休講も厭わない主義であることを知っているからだ。

「起きれるか」と訊かれたので力を入れてみるが、やはり空気のように身体から抜けてしまう。三士朗は灯の肩を借りて、たたまずにおいた布団のもとへ行くことにした。
抱えながら灯は、お前とオレの体格じゃお姫様抱っこは無理だしなぁ、と呟いていた。三士朗は反応ができる程、楽ではなかった。


***


ジャケットを脱ぎ、簡単な服装のまま三士朗は床についた。意識すると喉が痛み、咳がでるようになっていた。
向こうでは灯が音をたてて騒がしくしている。何をしているのか気にかかったが呼びかける声を出す事すらも怠かったのでそのままにしておいた。
暫くして灯が横に来る。水が入ったペットボトルとマグカップ。持ちやすいように取っ手のついたものを持ってきたのだろう。
よく見つけたもんだ、と三士朗が横目でそれを眺めていると、今度は手を伸ばされ額を抑えられた。そして、熱い、と言う。

「とりあえず熱ぐらい計っておけよ。どこに閉まってんだ?体温計と、あと薬も」

「…ない」

「は?」

「ふたつとも、ない」

三士朗は進学の為に故郷を離れ、一人暮らしを始めてから風邪を引くことはなかった。それ以前にも、滅多に病気になどはならず、当然体温計を使うどころか市販の薬に世話になることもなかった。

「ならせめて薬だけでも買って来てやるよ。粒と粉、どっちがいい?」

「そこまでじゃ、ない、から、いら、ない」

「いや、結構辛そうだけど」

「いらないってば!」

胸に力を入れて、はっきりと声に出した。それが逆に怪しまれてしまったか。灯に訝しげな顔をされた。

「お前…まさか、薬苦手なの?」

「…………」

無言で目をそらす。しかし灯は空気を読まず(読む気すらないのだろう)容赦なく問い詰めてくるので、ああそうだ、と渋々降参した。
錠剤やカプセルは喉に詰まる感覚が、粉末は口の中が苦くなるから嫌だと言った。
すると灯は「子供か」と笑った。予想通りの反応に機嫌が悪くなる。
三士朗は布団を深く被り、体を丸めた。

「仕方ない。じゃあ何かあったまるもの、作ってやるよ」

「いいよ、別に」

「いーの、どうせ何も食ってないんだろ」

薬嫌いがばれた事に居心地が悪くなったが、このまま断ってもこの男は強引に料理を作るだろう。三士朗は半ば諦めて、台所に向かう灯を止めることなく任せることにした。


***


灯が作ったものは、葱の入った卵粥。艶のある白米と薄い黄色の卵が湯気を立ち上らせていた。
三士朗は先程より身体に力を入れることができたので半身を起こして、少しずつ口へ運ぶ。灯は普段から料理をしているだけあって味はなかなかのものだった。

「料理は、上手い、よな」

「女だったら嫁に行けるよな」

「…自分で…言うか、それ」

そんな雑談を一言二言交わしながら、完食とまではいかなかったが程良く空腹を満たすことができた。加えて体の熱も上がってきたようで、眠気も増してきていた。

「薬も飲まないんなら後は寝るだけだな」

おぼつかない意識の中で軽い返事をして、灯が器を片付ける音を聞きながら、いつの間にか三士朗は眠りについていた。



ふと気がつくと、暗闇の中に居た。
もう日が落ちてしまったのだろうか、随分長く寝てしまったと思った。
熱は下がっておらず、部屋もひどく暑い。喉がヒリヒリと乾いていた。
そういえば横に水が置いてあるはずだと上半身を起こして辺りを探したがどうも見つからない。それどころか床に指が触れた時、生ぬるい液体に濡れていた事に気付く。
寝返りをして水を零してしまったのだろうかとと疑問に思いながら、むせかえる程の熱に呼吸は粗くなっていた。喉を抑えようと腕を動かす。が、持ち上がらない。力は入れているはずだと下を見ると、腕は地面の中に――生ぬるい液体だと思った、泥に捕らわれていた。
身動きが取れない。抜け出そうとする程、徐々に体は泥の中に沈んでゆく。ついに首から頭部まで飲み込まれそうになる。
―――息が、できない。
諦めそうな思いの中、目を固く瞑った、その時。

腕を掴まれた。伸ばされてきた掌に頭を支えられ、ゆっくり身体が引き上げられる。
息を吸う為に口を開く。しかし喉の痛みは消えず、空気を吸う事も辛い。すると唇が何かに強く押し当てられた。柔らかな温もりを感じると、そこから冷たい水が舌を伝い流れてくる。三士朗は拒む事もせず、喉を潤す為ひたすらに飲み込んだ。
霞む視界の中、うっすらと目を開ける。幽かな朱色の小さな燈火(ともしび)が、いくつもの数を増し、道を作るように誘うように先へ続いていた―――




三士朗は目を開いた。窓からは橙色の斜陽が差し込んでいる。横を向くと灯が壁に寄りかかり窓の外を見ている。三士朗は夢心地のままぼんやりとそれを見つめた。

「あ、起きた」

「…あぁ、起きた」

鸚鵡返しに応えると、ずるり、と顔に熱を含んだタオルが落ちてきた。手でそれを掴むと、自分の額に当てられていたものだとわかった。恐らく灯が用意したのだろう。寝ている間に世話をされていたのかと少し申し訳なく思った。
床に手を付いて前屈みのような姿勢になった灯は、横を向いてタオルを持ったままの三士朗に近づいてくる。

「随分うなされてたぞ」

「…変な夢、見た」

先程の世界は、よくよく考えてみれば、すぐに現実ではないとわかるものだった。三士朗はあんな夢を見た自分を可笑しく思った。相当熱にやられていたようだ。しかしそれでも少し休んだせいか、今は随分と身体が軽くなっていた。
三士朗の様子を見て平常とわかると灯は帰る支度を始めた。慌てて三士朗は礼を言って、世話になったことを詫びた。自分の身を案じてわざわざ大学から駆け付けてくれたのだ。その上、この曜日の授業は確か珍しく出欠を確認する特別なものだと思い出して、ますます申し訳なく思った。
それでも灯は、いーよ別に、と笑っていた。


「あ、でもやっぱ薬ぐらいは飲んでおけよ」と灯は玄関で靴を履きながら振り向いた。

「一応、薬買ってきておいたから」

「え?」

「粉はオブラートに包めば詰まる感覚なしに飲めるじゃん?次からそうしろよ」

それだけ言い残して、灯は帰っていった。

キッチンの上には水とマグカップ、開かれた風邪薬の箱が置かれていた。
その箱の中身が一袋だけ無くなっている事を、三士朗は気付かない。




2011.03.29.



本当は眠った所で終わらせてもいいと思った。
しかし自分の萌を優先。しかし書いてるうちにこれでいいのかわからなくなってきました…。


三士朗が見た夢と、薬が一袋ない理由。
オブラートに包んでみた。
灯はこういう事を平気でやっちゃう奴なんですよ。

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