[sor ato e ru]
青空の羽を秘める少年と、堕ちた神の使いに似て非なる者の話
黒い影と桜の木
「あれ」
ふと声に出したのも束の間
見えたのは黒い影。
影に見えるのも、それは月明かりが眩しいせいで。
「家出さん、かな」
黙って月を見ていた家出さんに話し掛けてみた。
背の高さからして、生まれてからずいぶん経っているだろう。
耳の形で種類はクンパだとわかった。
振り向くと右目に黒い眼帯もしていた。
その時の印象は、黒と白。
生まれたてのクンパと同じ色をしていたのだ。
「ああ、すまない。懐かしい香りがしたもので」と彼は笑った。
安定した低い声だった。
「すごいな、秋なのに桜の木を飾っているのか」
そう言って彼は桃色の花が咲く枝を触った。
そう。今日は珍しいんだ。
「今日は?」
普段ならここの島主は桜の木を飾りたがらない。
なのに、今日になって突然桜の島を飾りだしたんだ。
「へぇ」
相槌かも納得かもわからない声を、彼は出した。
ゆるくかかったパーマの髪は漆黒。満月と桜が異様に似合っていた。
「どうして、桜の島を買ったの?」
突然の問いかけに少し戸惑った。自分もまた、桜に見惚れていたからだ。
…本当は、ここの島主は桜が嫌いなんだ。
何年か前の春に、この「桜の島」が再販されたとき
自分が島主に無理をいって購入してもらったのだ。
「君が?そんなに欲しかったの」
そう。
「へぇ」
今度の声は、すこし笑いも含まれていた。
ふわりと風が吹いた。
小枝と花が揺れて、香りとともに花びらが落ちてくる。
「俺も、桜の島が好きなんだ」
ちらちらと踊りながら降る花びらを掌にのせて彼は言う。
「だけど俺の好きだったこは桜が嫌いなんだ。
前はあんなに好きだって言ってくれてたのになぁ」
へぇ、じゃあ一緒だ。
自分の愛する者も桜が嫌いなのだ。だから飾りたがらない。
しかし今日になって、桜の島を飾るといってくれたのは少し嬉しかった。
「じゃあ、今日はラッキーだったね。
ここの島の桜が舞い散るところなんて滅多に見られないわけだ」
そう、あなたは運がいい。
ここの島の桜は、人のために、滅多に咲かないのだから。
「そういえば、君の色は俺の好きだったこと似ているな」
そういってクンパは目を細めた。「紫色は美しい幻想の色だ」
彼の言った言葉に、思わず頬を緩めてしまう。
色を褒められると無性に嬉しく感じる。
それは恐らく自分の愛する者も自分と同じ色をしているから。
そしてその言葉に、聞き覚えがあったから。
「なぁ、ここの島主君、元気かな」
ああ、元気だよ。今も奥で気持ちよさそうに眠っている。
「そっか。きっと何か良い夢をみているんだろうな」
ああ、きっとそうだろう。
満月の光に白い花は優しく光る。
この桜も明日にはなくなっているだろう。そんな気がした。
「じゃ、満開も見れたことだし帰るかな」
家出が自分から帰るのか?
思わず笑ってしまった。
彼はよほど主人がすきなのか、若しくは軽い冗談なのだろう。
「ああ、あんま長くは居られないからな」
どうやら彼は本気で帰るらしい。
気をつけて変えれよ、と言葉を添えた。
「おう、ありがとな」
彼が立ち上がると、地面に落ちていた花びらが再び宙に舞う。
とたんに強い風が音をたてて吹いた。
「ばいばい、ソテ」
「え」
強く吹いた風の後。
満開の桜はまだ満月に輝いている。
たった今まで目の前に居た男は、影も残さずに消えていた。
「ねぇねぇサティ!!!!」
「あぁ、おはようソテ。どうしたの」
「昨日ね!!夢でね!!あのひとに会えたの!!」
「あのひと?」
「そう!!でも実際には話はできなかったけど…でも嬉しかったよ!!
やっぱり桜の島が良かったのかなー」
「桜?どうして桜と関係があるの?」
「あのひとが好きだった桜の木を飾ればね、
きっとあのひとが、来てくれるかと思ったの」
「へぇ…」
「あのひとはね、紫色もすきだって言ってくれたんだ!
『紫はうつくしい幻想の色だ』って言ってくれたんだよ」
「……!!」
「……サティ?」
「…―美しい幻想の色、ね」
ふと声に出したのも束の間
見えたのは黒い影。
影に見えるのも、それは月明かりが眩しいせいで。
「家出さん、かな」
黙って月を見ていた家出さんに話し掛けてみた。
背の高さからして、生まれてからずいぶん経っているだろう。
耳の形で種類はクンパだとわかった。
振り向くと右目に黒い眼帯もしていた。
その時の印象は、黒と白。
生まれたてのクンパと同じ色をしていたのだ。
「ああ、すまない。懐かしい香りがしたもので」と彼は笑った。
安定した低い声だった。
「すごいな、秋なのに桜の木を飾っているのか」
そう言って彼は桃色の花が咲く枝を触った。
そう。今日は珍しいんだ。
「今日は?」
普段ならここの島主は桜の木を飾りたがらない。
なのに、今日になって突然桜の島を飾りだしたんだ。
「へぇ」
相槌かも納得かもわからない声を、彼は出した。
ゆるくかかったパーマの髪は漆黒。満月と桜が異様に似合っていた。
「どうして、桜の島を買ったの?」
突然の問いかけに少し戸惑った。自分もまた、桜に見惚れていたからだ。
…本当は、ここの島主は桜が嫌いなんだ。
何年か前の春に、この「桜の島」が再販されたとき
自分が島主に無理をいって購入してもらったのだ。
「君が?そんなに欲しかったの」
そう。
「へぇ」
今度の声は、すこし笑いも含まれていた。
ふわりと風が吹いた。
小枝と花が揺れて、香りとともに花びらが落ちてくる。
「俺も、桜の島が好きなんだ」
ちらちらと踊りながら降る花びらを掌にのせて彼は言う。
「だけど俺の好きだったこは桜が嫌いなんだ。
前はあんなに好きだって言ってくれてたのになぁ」
へぇ、じゃあ一緒だ。
自分の愛する者も桜が嫌いなのだ。だから飾りたがらない。
しかし今日になって、桜の島を飾るといってくれたのは少し嬉しかった。
「じゃあ、今日はラッキーだったね。
ここの島の桜が舞い散るところなんて滅多に見られないわけだ」
そう、あなたは運がいい。
ここの島の桜は、人のために、滅多に咲かないのだから。
「そういえば、君の色は俺の好きだったこと似ているな」
そういってクンパは目を細めた。「紫色は美しい幻想の色だ」
彼の言った言葉に、思わず頬を緩めてしまう。
色を褒められると無性に嬉しく感じる。
それは恐らく自分の愛する者も自分と同じ色をしているから。
そしてその言葉に、聞き覚えがあったから。
「なぁ、ここの島主君、元気かな」
ああ、元気だよ。今も奥で気持ちよさそうに眠っている。
「そっか。きっと何か良い夢をみているんだろうな」
ああ、きっとそうだろう。
満月の光に白い花は優しく光る。
この桜も明日にはなくなっているだろう。そんな気がした。
「じゃ、満開も見れたことだし帰るかな」
家出が自分から帰るのか?
思わず笑ってしまった。
彼はよほど主人がすきなのか、若しくは軽い冗談なのだろう。
「ああ、あんま長くは居られないからな」
どうやら彼は本気で帰るらしい。
気をつけて変えれよ、と言葉を添えた。
「おう、ありがとな」
彼が立ち上がると、地面に落ちていた花びらが再び宙に舞う。
とたんに強い風が音をたてて吹いた。
「ばいばい、ソテ」
「え」
強く吹いた風の後。
満開の桜はまだ満月に輝いている。
たった今まで目の前に居た男は、影も残さずに消えていた。
「ねぇねぇサティ!!!!」
「あぁ、おはようソテ。どうしたの」
「昨日ね!!夢でね!!あのひとに会えたの!!」
「あのひと?」
「そう!!でも実際には話はできなかったけど…でも嬉しかったよ!!
やっぱり桜の島が良かったのかなー」
「桜?どうして桜と関係があるの?」
「あのひとが好きだった桜の木を飾ればね、
きっとあのひとが、来てくれるかと思ったの」
「へぇ…」
「あのひとはね、紫色もすきだって言ってくれたんだ!
『紫はうつくしい幻想の色だ』って言ってくれたんだよ」
「……!!」
「……サティ?」
「…―美しい幻想の色、ね」
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